「ベッドに縛られて」 「ミスターマン」 公演情報 名取事務所「「ベッドに縛られて」 「ミスターマン」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2019/03/12 (火) 19:00

    座席G列5番

    「ベッドに縛られて」
    今回は2戯曲上演なのだが、作品的には「ミスターマン」の方が先に作られたらしい(1年前)。それを知ると、「ミスターマン」の一人芝居が、この「ベッドに縛られて」の独白調のニ人芝居へと拡張された(あるいはベッドの上という形での濃密度化、コミュニケーションの空虚化)ものと考えるのもあながち間違っていないと思う。

    ベッドの上にいる父と娘、彼らはそのベッドに閉じ込められるように寝ている。
    父は寝ようとするが、娘の話は止まない。
    娘はおそらく今20歳くらい、10年前にポリオを患いそのまま寝た切りに近い生活を送っている。母親も10年前に亡くなった。娘は父を父だと認識はしているようなのだが、それが」どうもはっきりしない。
    娘は、時として発作を起こして夜眠れない。そんな時は、「初めからやりなおせばいいのよ」と自身の記憶と向き合うことにする。
    物語りは、主に父親の過去についての自分語りとなる。
    父は、昔からずーと家具屋に勤めており、倉庫搬送係から、先輩の販売員を殺すことで
    販売員の立場を手に入れ、その後、流行りの家具販売で成り上がり、裕福な生活を手に入れ、ついには自分の店を出すことになる。そして妻と結婚し娘が生まれる。しかし、そこから彼の転落が始まって、機を一とするように妻と娘に不幸がおとずれたことを娘が、父の語りに被さるように語りだす。

    父は現在何をしているのか、娘の汚れた寝間着とベッドシーツが何を意味するのか。
    父が犯す犯罪、家族の優雅な生活、娘の幸せな日々、これらは現実の過去なのか、それとも架空世界ないし妄想なのか、それははっきりしない。

    ただ、彼らは同じベッドで自らの回想を語るだけだ。
    「ミスターマン」の主人公トーマスのように、カフェや墓参り、ダンスパーティーに出かけたり、ともすると空を舞ったりするような自由は全くない。

    確かに荒唐無稽。しかし、そこには、自宅内のあちらこちらに壁を立て付け、家を迷路にし、ベッドだけの小部屋を作ってしまう父親の果てしない束縛への希求と、自らを閉じ込めようとする絶望感だけがにじみ出てくるだけだ。

    娘役の小飯塚貴世江さんが家具屋の下働きの男達の相槌役を引き受けるが、実のところ、娘と父の交流はほとんどない中、父と子の相槌が物語り中で成立する雄一の交流なのである。
    1つの場所への拘束といい、交流不能でありながら、お互いを希求す2人といい、ベケットの「幸せな日々」を思わせる作品。

    寺十吾さんは、珍しくよく口籠ったけれど、あれは演出?(父の意識の混乱?)すでに5回目の公演ということだし。むしろすらすらと話して、セリフが一層無機質なった方が、それぞれの孤立感が強調されてよかったように思う。

    0

    2019/03/13 13:31

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大