三島由紀夫「近代能楽集」より4作まとめて上演!『葵上』『班女』『熊野』『綾の鼓』 公演情報 鳥の劇場「三島由紀夫「近代能楽集」より4作まとめて上演!『葵上』『班女』『熊野』『綾の鼓』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    三島由紀夫「近代能楽集」より『葵上』
    もし私だったら「捨てないで」の一言だけは、惚れた年下の男には最後まで言えないだろうな。恋しい男を奪った若い女から、最後の最後に男を奪い返すラストシーン。心の中で密かに乾杯!これだから女はやめられないと思う。
    舞台に流れる歌謡曲とその違和感の無さ、男優が演じる康子(生霊)に女の愛おしさと怖さが凝縮され、中島諒人の演出に喝采。三島由紀夫連続4作品上演の中で、最高に面白かった舞台である。(上演50分)

    ネタバレBOX

    舞台の上手半分に葵の入院先の病室。出張先から駆けつけた光は、看護婦から、夜ごとに訪れる謎の見舞客の話とそのときに葵が酷くうなされることを告げられる。
    下手は六条康子のマンション。康子が眠りにつくと、背後に豪奢な重ね袿に衣の被り物をした康子の生霊が登場する。傍らに伴った黒子が中空に捧げ持つカゴを揺すると紙吹雪の雪が深々と舞い落ちる。背後に流れるのは都はるみの「北の宿から」。
    舞台の背後をゆっくりと回り込み、葵の病室に向かう康子。
    被り物をとると男の顔のままの阿部一徳が演じる康子(生霊)が現れる。まるでオカマバーのママのようだが、光に「捨てないで」と告白する台詞は年上の女の思いが溢れる。
    あなたから別れを告げたのではないかとなじる光を、愛し合っていた頃の彼らの思い出に誘い込もうとする康子。
    背後にブルーの紗幕が降りてくると葵のいる病室はすっかり隠れてしまう。
    ヨットで湖畔の彼女の別荘に向かう二人。松田聖子の「赤いスイートピー」の曲が流れ、風を受けて帆柱の傍らに光と寄り添う康子。光の優しい言葉に、思わずくらっとよろめく康子。若々しい野望としなやかな好奇心は年若い男の魅力だ。背後で幽かに聞こえる葵のうめき声、帆柱の軋む音だと誤魔化そうとする康子だが、我に返った光は葵の許に戻ってしまう。
    諦めて帰ろうとする康子が、自分が片方ぬぎ捨てた長手袋を取ってくれと光に頼む。これが最後だと言うばかりに、黒レースの手袋を康子に手渡しに行く光。ところが彼女の手は光の手を離さない。やがて憑かれたように康子に手を導かれて、舞台の奥に消えていく光。
    激しく悶え苦しみながら、絶命する葵。そして幕。

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    2019/03/12 08:55

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