満足度★★★★★
天晴れよくぞ!と思う間もなく終いまで持って行かれた。パンフにはそろそろネタ切れと作演出望月氏の弁であったが私の中では今回の新作は随一。曲も悪くない歌は歌える動きもよし、多くが若手だが役柄を演じ分けて甘えがない。恐らく私には新作であった事が何げに大きい。時は敗戦から6年、朝鮮戦争の特需で経済復興を遂げた日本、話の舞台は熱海、前年の大火からこの街も復興を遂げつつある中、高台に住む谷崎潤一郎宅へ青森から新しく女中に雇われてくる娘を先輩女中らが駅で出迎える朗らかなシーンから始まる。街の花形はタクシー運転手、女中らとの恋の兆し、だが街を裏で牛耳る組は長が市議となりヤクザ稼業から足を洗ったとは言え、観光都市化が目論まれる街の経済には裏社会が影を落とし、大火の原因にも疑惑が。一方この街には「戦勝国」に帰属する中国人、朝鮮人も風俗商売に凌ぎを削るが、戦争で分断された祖国と、その惨状をてこに経済復興を遂げる日本への複雑な思いも展開に絡んでいく。米朝会談を控え、南北雪融けの時に南北分断を望むかのような奇妙な論調が出回る日本の現在が、台詞の端に顔を出す所に「今」を感じた次第。清と濁、光と闇が背中合せ、シニカルな楽天性が真骨頂のドガドガを堪能した。