満足度★★★★
この数年活動を停止していた劇団東京イボンヌが活動を再開するということで、その公演を観てきた。作品は主演女優がダブルキャストで、孝島佑香が主演を務めるのが『モルディブの月』、坂口彩が主演を務めるのが『ノルディブの星』で、他の役はシングルキャストで話の内容は全く同一。主演の女優が変わるだけで舞台がどう違ってくるのか、それを楽しめる貴重な公演であった。
主人公は宇都宮でキャバクラ嬢をしていた田中布美。キャバクラを辞め、海と星の美しさに惹かれてモルディブに行きダイビングのインストラクターを目指していたが、子供が欲しくなって日本に帰り結婚し一児の母に。しかし、夫を愛しているわけではなく子供が欲しかっただけの布美は専業主婦に飽きてきていた。そこで地元の飲み屋で知り合った会社員と仲良くなり、布美は再び自由を求めて子供を連れてモルディブに。彼女には、新たなパートナーとして会社員だった男がそばにいた。
途中、布美の妹や宇都宮のバーのマスターなどの絡みもある、90分の作品。
フライヤーに「何かを選んだら何かを手放さなければいけない」「人生は、選択の繰り返し」と書かれていたが、まさにその選択の苦悩をしんみりと演じていたのが主演の女優二人。孝島佑香はどちらかといえば精神的な表現に長けていて静的な雰囲気で、反対に坂口彩は動的な演技で田中由美を演じていて、共演者はそれぞれの持つ雰囲気に引っ張られて月と星を自然と演じ分けていた。
個人的な好みのから言えば、坂口彩の演技に見入っていた。
それと、男優陣でモルディブのインストラクター役を務めた森山太と、布美の夫役を務めた米倉啓は、独特の存在感があって興味深くその演技を観させてもらった。
過去の東京イボンヌの作品の『無伴奏』にどこか精神的に通じるところがあるように感じたこの作品。演じる女優を変えて再演したら、さらなる発見があって面白そう。
この公演を機会に、東京イボンヌの活動再開を祝したい。