満足度★★★★★
「陰獣」をほぼ原作通りの流れで展開し、そこに「化人幻戯(けにんげんぎ)」の断片をはめ込むという構成になっている。乱歩の大好きなタイプの女性のW盛りである。前者のヒロインはサヘル・ローズさん、後者のそれは月船さららさんが演じる。乱歩ものはあまり好みではなく、ローズさんのファンではない私でも満足度は5つ星を付けざるを得ない完成度である。原作にはない怪しいオープニングにも大いに期待を高められた。
「陰獣」には乱歩自身をモデルにした謎の作家大江春泥(本名平田一郎)が登場し、語り部のライバル作家が乱歩とその作品について言及する。この芝居ではそれをさらに進めて未来の作品を乱歩に代わって取り込んでいることになる。
男女のからみのシーンは「化人幻戯」だけで行われる、とはいっても月船さんの裸身が拝めるわけではないのでお父さん方はお間違え無く。情交シーンを「外部委託」することによって「陰獣」の論理構造が明確になっている。一方の「化人幻戯」は事件も捜査もトリックもカットされていて「必要なのは濡れ場だけかい」状態である。
さて「平田一郎」が「平井太郎」のもじりであることは明らかだが「大江春泥」はどこから来ているのだろうか。「江戸川乱歩」そのものからなのか、遡って「エドガー・アラン・ポー」からなのか。後者とすると「O.A.Sunday」などというのが思いつくが、そんな作家も名探偵も犯人もいない。「日曜にオンエア」なんて言い方も当時はないだろう。もう一ひねりが必要なのだろうか?「泥」は「どろ」で「ドイル」が臭いのだが。ちょっと調べたがこの問題に対して誰も言及していない。あまりに明白で私だけが分かっていないのか?
ついでに新しい英語題名の "Into the Darkness" だが、本当は "INJU, the Darkness" だったのだが誰かが "INJU" を "into" に聞き間違えたのを「乱歩的だ!」と採用したのでは?