満足度★★★★★
開演時間。半円形のステージを取り囲む客席の間を通って、黒衣の人々がゆっくりと舞台に向かっていく。舞台に灯る小さな火を目指すように。
プロローグで語られる星の運行。『平家物語』に題材をとり、天の視点で観る叙事詩劇と言われる作品である。
一の谷の合戦で義経におわれた知盛は民部の船に助けられる。
船まで知盛を乗せてきた愛馬が、陸へ向かって泳いで行く。敵軍に渡すよりいっそ射殺してしまおうとする民部を知盛が止める。以前の自分なら、止めるどころか自ら弓を手にしていたはず、なのになぜ、と自問する知盛の胸の内。
源平合戦のダイナミックな展開は『平家物語』から引いた語りによるけれど、それについての心理描写はきわめて現代的だ。
登場人物の大半は『平家物語』に登場する人物だが、影身という舞姫はそうではない。主人公である知盛に従い、生と死を超えて彼を見守る。また、知盛以上に敵方である源義経についての場面も多く、それぞれの側からこの戦いの攻防が描かれていく。
この舞台の特徴としてよく言われるとおり、『平家物語』を下敷きにした「語り」や「群読」による日本語の響きの美しさを堪能する。同時に、語られる言葉には意味だけでなく身体性が加わっていくのも興味深い。
そうやって語る人びとの中には伝統芸能の担い手もいれば新劇系や小劇場出身の俳優さんもいて、それぞれの持ち味を生かしつつ、この世界観を支えていく。
シンプルでありながら場面によって姿を変える美術も印象的であった。
そうして描かれるのは、「運命」というより「天の運行」あるいは「歴史の流れ」のようなどうしようもないものに流されていく人びとの悲劇。それは単純な喜怒哀楽を超えて、名付けようのない透明な感情を引き起こしていく。
この上演をずっと楽しみにしていた。そして、その甲斐があったと思える舞台であった。