ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】 公演情報 劇26.25団「ひずむ月【本日千秋楽!当日券若干あり】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    地震学の先駆者
    「関東大震災(1923)」の地震の前と後で、評価が大きく変わった学者...今村明恒東京帝国大学教授(博士)。 地震前は「ホラ吹き」と罵(ののし)られていたのが、地震後には「地震の神様」となった。

    本公演は、地震やそれに連なる災害を描くというよりは、数奇な運命を辿った男の人生譚といった物語である。その家族や職場である東京帝国大学地震学教室の人物との交流を中心に展開していく。ほぼ年代順に進み、時々の風潮が織り込まれる。

    タイトル「ひずむ月」...地震は地球上に起こる現象であるが、それは(歪む)月になぞらえて民衆の心(変わり)を投影しているような...。
    (上演時間約2時間)

    ネタバレBOX

    公演やそれを取り上げた新聞記事等の中で、将来起こりうる関東地方での地震への対策を訴える。「ホラ吹きの今村」と中傷されるも、彼の警告は関東大震災によって現実のものとなる。その後、幅広い震災対策を呼びかける一方で、現在の「地震学会」設立に尽力する。本公演では、関東大震災までの辛苦の時代を中心に描き、地震に対する独自の視点と研究成果へ自信、その信念の強さを窺い知ることが出来る。

    物語は、今村明恒が東京帝国大学地震学教室に勤務(無給)しているところから始まる。その後は、彼の家庭と職場、外部での公演とその新聞記事により騒動が交錯するように描かれる。この時代、金銭的に苦労したことにより子供を亡くしている。子(特に長男を通して)への愛情、接し方も明治男の気骨を思わせる。

    また、今村の長男・武雄と朝鮮飴売りのアンさんの交流は、関東大震災時に流布された朝鮮人行動に結びつける伏線であることは明らかである。今村教授の職場内での不遇、家庭内の不幸、夫々への苛立ちも垣間見え、けっして聖人君子のような人物でなかったことも描き出す。そこに人間味=この芝居の魅力が表れていると思う。

    役者陣の演技力は確かでバランスも良い。その演技をさらに効果的に演出しているのが、舞台セット・衣装(和服)である。上手側に段差のある舞台を設け、今村家や街路に見立てる。舞台中央は職場、そこに机が置かれている。また可動する背もたれの高い椅子、見ようによっては衝立をいくつか用意し、玄関戸、汽車内の座席。その簡易な道具によって見る面白さが加わる。

    本公演まで名前さえ知らなかった男の半生...関東大震災以降、阪神淡路大震災、東日本大震災など幾度となく地震災害の痛みを受けている。今村教授の教訓は生かされていたのであろうか。冒頭や中盤でのダンスシーンが、災害対策への啓蒙と大正時代の遊興の対比(皮肉)として描かれているような気がして…。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/10/15 16:52

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