満足度★★★★
大事件の背景の中で
男だけの芝居。同作者の「東京裁判」「外交官」も同様だ。
男が「大状況」の中でヒロイックに振る舞い、格好良くその舞台上で凝縮された人生を謳歌する、そうしたものへの単純な憧れは、憧れ以上ではない気がする。フィクションの中だけ・・そう思う。
もちろん「出来すぎ」なドラマが書かれている訳ではないが、大づかみに括れば、その範疇だ。既視感がある。・・対抗できもしない米軍相手に(その相手の顔は見えない所で)鼻息荒く、ちょっと粋な啖呵を切って見せるが所詮負け犬の遠吠えに等しい、単細胞をサンプルで見せる戦争物や事件物の映画に登場するそんなやつらが、ふと過ぎる。
この憧憬の的をフィクションとして楽しめる向きには、娯楽として成立するだろうし、三億円事件の史実については、作家は誠実に書き込んでいて、知的欲求を満たす部分もある。
ただ、事件の「犯人追及」を本線とするなら、脇に当たる部分についての言及、時世に絡めての議論が、「犯人を追う」動機とは離れてなされていて、その時間が少々長く、結局進展しない捜査の「倦怠」が表現されているのか、意地は捨てていないプロジェクトXな男たちのドラマが表現されているのか。状況からして前者であるし、捜査状況の内容からして後者のポーズはとりづらいはず。そうならないための「事件」をめぐる言辞によって、辛うじてプロジェクトXが成立しているが内実はどうか・・・疑問が湧いてくるという感じだ。
あの事件に立ち向かった人々・・・という「雰囲気」は伝わったが、実際リアルな実情としてはどうだったのか・・・男が格好付ける分だけ、その情報が希薄になるという関係があるように思う。リアルに描く・・・その必要はない、と開き直ってもよいのだが、それでは大きな史実のドラマ性に寄りかかっただけではないか。史実に批判的に切り込む、その視点が、見えるようで見えなかった。
俳優では、美味しい演技を見せる方、存在感ある方。悪くなかったが・・・
2016/09/15 14:13