殺人者J 公演情報 TRASHMASTERS「殺人者J」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    議論のためのシチュエーション
    「武力」という禁忌に手を染めようとする警備会社。傭兵帰りも社員に居たりするのでそういった流れも必然らしい。これを「日本のため」とする社長、そして彼と共に会社を立ち上げた部長、日和見社員、筋を通そうとする社員、各自のスタンスがあって、終始議論をする。芝居は中盤の大きな事件を区切りに前半・後半に分かれ、後半は情緒が個人の思考に及ぼす影響を浮かび上がらせる。
    芝居が進む時間上には、「事件」の他は議論をしている。その中で過去に属する情報が引き出され、議論の方向を左右したりする。「事件」を境に感情的になり偏狭になって行くこの場所を社会に当てはめて言えば、「キナ臭く」なる。ショックドクトリンの判り易い事例と言えなくない。「あるべき議論」から遠ざかって行く様は、我々が実際に目にしている日本の現在の「偏狭」に対し、追認することしか許されない居心地の悪さがある。「あるべき議論」を提示する局面が、やはり必要なのではないか・・・そんな事を思う。
     ここ最近のTRASHの作品は、(たとえB級映画的でも)ドラマティックな展開があった以前とは異なり、「議論」が中心になっている、と思う。もっとも、作者的にはこの議論の中で事件が起きることになっているのかも知れない。今作では「不倫」という事実を「事件」として扱い、女性はその相手の本心を「発見する」という事件も書き込んでいて、女が号泣したりするが、これは「武装」路線の是非の議論には無関係だ。彼女が宗旨替えするというならまた別だが。。
     という事でこれは「議論劇」の範疇にある、と考える。
    もし「行動」を描く芝居なら、各自にもっとリアルに行動させ、とうに議論を打ち切らせ、「武装化」を進めようとする者とそうでない者が、それぞれ何を動機としてその判断に至っているのか・・を浮かび上がらせたい。 自らとは反対派に位置する「不倫」の当事者に対し、意見を言う資格なし、と排斥する言動がかなりの分量をとっているが、本当の動機を隠そうとする者が他者の弱点をあげつらうもので、それを延々と続けられても議論的には前に進んで行かない。「議論を闘わせるのためのシチュエーション」をお膳立てする着想に秀でた中津留氏の、急ぎ仕事を最近は見ている気がするので、じっくり書ききった作品を見たい。

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    2016/07/24 03:29

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