紙の方舟 公演情報 シアターノーチラス「紙の方舟」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    居場所を失った人間たちの姿
    異様、不気味な感じが纏わりつき、意識下に澱が沈殿していくようだ。観ているのが辛く嫌らしく感じるが、それだけ脚本・演出、そして役者の演技が優れている証であろう。まず、この物語には回答らしきものは用意されていない。この方舟の内に居る人、外にいる人(家族など)の異なる視点から捉えており、その思いは其々に違う。日本古来の集団、その小単位としての「家制度」または「家族」という血縁の中に居場所が見つけられない悲劇性。家族だから分かり過ぎて自分の心へズカズカと入り込んで精神をかき乱すのかもしれない。その掴みようがなく、得体の知れない怖さ。

    さて、描かれた内容に答えはないが、このタイトル「紙の方舟」の意味は作中で説明される。それは...。

    ネタバレBOX

    舞台セットは、肌色(敢えてそう表現)の継ぎ接ぎだらけの天幕イメージ。中央に丸座卓、ベンチ椅子などが置かれているだけ。マザー(登場しない)と呼ばれる人物は死の淵にいる。残された人々は、今後の身の振り方を考えるが、当面は方舟に留まる意向のようだ。この組織のあり方に疑問や家族との関係の修復を試みようと...その第三者的な立場としてマスメディアの取材を入れる。

    この組織に自ら入り、家族とは違う心地よさ、仲間を裏切れないという諦観と脅迫観念。この組織と個人の在り方は企業と同じ。組織内にいる時は、身近過ぎてそれが当たり前であることが、外から見たら組織の功罪や人間関係が冷静に観察できる。その有形無形の柵(しがらみ)に絡め取られているのかもしれない。組織に守られる一方、その閉鎖性に段々と息苦しさを覚えるという矛盾、そこに人間のエゴが浮き彫りになる。その柵をマザーか実母の危篤状態での看取りの選択として描く。方舟は「宗教集団」ではないという叫びが、この物語を展開する上で重要になっていると思う。

    さて、タイトル「紙の方舟」は、まだ「方舟」に乗り込んでいない状況だという。その迷える感情が、(新興)宗教と一線を画しているかのようだ(事実はそうかもしれない)。カルト、宗教が絡むと問題が複雑・錯綜することを見越した作者・今村幸市 氏は、ギリギリ踏み止まり、このドキュメンタリーのような”ドラマ”として描いたところに卓越した力量を感じる。

    なお、この難しく怪しき雰囲気、濃密な人間関係を役者陣はしっかり体現しており見事であった。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/05/21 23:08

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