満足度★★★★
朗読劇の深みを味わう
演劇口コミサイト・コリッチで招待券が当たったので、KAKUTAの朗読劇『アンコールの夜』を観てきた。
今回の公演は、「男を読む。」「女を読む。」「猫を読む。」という3種のプログラムが準備されており、自分の観た初日昼間の舞台のプログラムは「男を読む。」。地の文を朗読するのが男性のプログラムである。
取り上げられた作品は4つ。
○空手道場で優しくイケメンの井戸川が、その死を契機に本性が暴かれていく桐野夏生「井戸川さんについて」
○新宿で世にも可憐なダッチワイフを助ける、いしいしんじ「天使はジェット気流に乗って」
○友人を死から救おうと現在から過去へ繰り返し行き来し、結局は運命を受け入れる朱川湊人「昨日公園」
○そして、劇団のオリジナルで離婚し別居直前の元夫婦の複雑な心境を描写する、桑原裕子「男を読む。」
オリジナル作品は最後に置かれ、他の作品は笑いから悲しみへと舞台の趣が移っていくように配置されていた。井戸川さんの本性に翻弄される僕を演じる岸野健太、ダッチワイフを助ける僕を演じる実近順次とダッチワイフを演じた四浦麻希のけなげなやりとり、友達を救いたいがため必死になる遠藤を演じる成清正紀の演技が舞台の核となり、全体を盛り上げていく。客席からは時折笑いも起きるが、話が進むにつれ笑いは消え舞台に釘付けになってついには目を潤ませる。まったく憎い構成である。初日最初の舞台とあって、役者が台詞を噛む場面もあったが、そのしゃべり、表情は実に表現力に富んでいて感心。簡素な作りの舞台であったが、役者の力がその不足を十分に補っていた。今、名前を挙げなかった役者たちもなかなかの実力。いやぁ、偶然見つけた劇団だったが、創立20周年、鶴屋南北戯曲賞を受けただけのことはある。良い舞台を見せてもらった。