満足度★★★★★
人間て素晴らしい
ゲネプロを拝見した。未曾有の災害に見舞われた日本。誰もが流れてくる情報や報道の信憑性に疑心暗鬼なった。安全と危険を判定する基準は誰が決め、それに誰が照らして判断するのか。使用したデータは正しいものなのか。それが怪しければ、判断自体の意味が失われる。●被災者、被災地へ向けられる言葉には、愛あるものも無責任なものも混在する。それを見極めるのは難しく、図らずも傷つけられる。ましてや報道に作為的なものがあるなら最善策を探すのは困難を極める。親なら誰だって、ウミガメのように、我が子を安全な場所でと願う。●杜甫が社会や政治を嘆いて詩を詠んだように、この作品にも人々の苦しみや悲しみがある。国家、政治という化け物に翻弄され、怒りと不安をぶつける矛先も分からずに苦しむ人たちがいる。救いは、疎開先の人たちが人間味があって…「世の中そんなに捨てたもんじゃない」と思わせてくれる。そう、この作品を観て、悲しみを包み込み浄化させてくれる『人の温もり』がある。たくさんの人に、寂しさに凍えている人に、この作品を観て欲しい。きっと、生きる希望と勇気を持ち帰れるはず。●喫茶店で飛び交う「hot(珈琲)くれ」が「放っといてくれ」にも聞こえる。人の心に立つ壁。HOT LINEは紛れもなく温もりが繋がる場所。年越しパーティのやり方に悩む人たちが出した結論に涙を堪えるのは至難の業。それで心を洗えばいい。●家族の繋がりを考える。子は鎹とはよく言ったものだ。子の親思う心に胸打たれるが、それを承知している親心は、全てを包み込んで温かく尊い。ウミガメにも負けない慈しみに溢れていた。●人見知りで拗ねてもいた二女が、あの男に何気なく言う「おかえりなさい」が胸を打つ。なんて優しい言葉なのだろう。自然な挨拶に勝る優しい言葉は無い。帰る場所のある幸せと、人に受け入れられている安心と喜びが詰まっていた。●魅力的な人物がたくさん登場する。中でも二女の友人役の永田涼香さんが初々しくて涼風を届けた。喫茶店店主の弟の彼女役の鷹野梨恵子さんがいい。そこに生きていた。柔らかく、そして力強く生きていた。こういう役者さんに出会うと本当に幸せな気持ちになる。●責任て何だろう。あまりにも巨大な力に、人間の無力さを知る。そして自然に刃を向け、未来に刃を立て続ける人間の愚かさについて考える。