クラッシュ・ワルツ 公演情報 刈馬演劇設計社「クラッシュ・ワルツ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ありふれた日常から...切ない
    舞台セットから、これから先に描かれる内容が想像できるような丁寧な作り。開演までに流れる、微かな波の音、船の音、その静寂な雰囲気が突然ドタバタと...冒頭演技はそれまでのしじまを破る。そのギャップは計算の内なのだろう、すぐに物語に引き込まれた。物語はどこにでもある(海辺)街角、3年前にそこは運命の十字路になったという。これからの話は、それこそ初演時の前に起こった出来事を意識していることは容易に想像できる。
    (上演時間90分)

    ネタバレBOX

    舞台セット...和室内、その壁は鯨幕のような白と黒を基調にし、真ん中に長座卓が置かれている。これまた青幕をイメージした座布団。部屋の周りに白い花が咲いている花壇(供花イメージか)。物語は交通事故の加害者、被害者元夫婦、事故現場に住む夫婦(第三者)という立場が異なる大人のそれぞれの思いと思惑が絡んだ濃密な会話で進む。通常であれば、第三者は入り込まないのであるが、直接事故に関係ない人たち(夫婦)を登場させ、その会話の中で東日本大震災を想起させる。加害者女性が十字路に供花しているが、そのために売却を予定しているこの家が事故物件扱い(縁起が悪い)になり、売却価格が下がるという。この金銭的問題と併せてこの家の主婦が自責の念に苛まれる。そぅ、近所にいるからこそ交通事故の予見可能性を感じ取る。それにも関わらずどこにも相談しなかったと嘆く。直接事故に関係しないが、風評被害、二次被害、三次被害という言葉で表す。普通の日常会話ではなかなか出てこないだろう。

    登場人物たちの思いは直接に、捻じれて、揺れる様相...その漂流するような展開になるが、事故から3年、前に進んでいないことに対する被害者女性の決意。その行動として、被害者が気になり尾行まがいのことを始める。そして被害者の女性は夫と離婚しているが、その元夫が加害者女性の弱みに付け込み性的関係を強要していることを知る。一身に贖罪する加害者、それが一転して被害者女性に一度も供花しないことを詰め寄る。その反論として加害者は供花することで贖罪(責任)の充足を感じているとも。5歳時の子の”死”を日々弔う加害者、5年間の”生”を見続けた母としての被害者、その激情した会話の応酬に心震える。それでも被害者の母親は前に進むために加害者に供花を止めて自分のために生きてほしいと諭す。

    隣家から聞こえるたどたどしいピアノの練習は、この家に住む夫婦がワルツをぎこちなく踊る姿にシンクロする。それでも少しずつ進んでいるのだから...。復興を意識していることだろう。ただ少し震災を盛り込み過ぎかも。

    なお、気になったところ、加害者が妊娠しており、それに気が付いている被害者女(母)が祝福する。加害者が既婚者か恋人がいるか定かではないが、話の流れからすると、元夫の子を宿したとも思える。それでもわが子を事故死させた加害者を許せるものか?激高する感情を押し殺したような結末に疑問が残る。

    表層的には交通事故を題材にした「クラッシュ・ワルツ」、その内容はヘヴィで濃密な会話、息詰まるような緊張感。それでも後味は決して悪くはないヒューマンドラマとして楽しめた。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/03/01 18:55

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