満足度★★★
交わらない6本の線
一見、不思議な関係性を持った6人の登場人物。精肉店の店主とその娘、中年の店員。要介護状態にある先代店主(姿は見せない)を介護しに来るヘルパー。飲み仲間である近所の文房具店主。そして、10年前に交通事故で精肉店の店主の妻を死なせてしまった加害者の男性。
物語はこの6人が出入りする精肉店の居間・ダイニングキッチンで進行する。6人はそれぞれいろいろな背景を抱えているが、その背景が交わりそうですれ違っていく。結局、答えは出ない。私たちの日常生活のさまざまな問題や人間関係に、そう簡単に(舞台が行われている2時間という短時間では、特に)答えは出ないのだから、それでいいのかもしれない。
昨年、「オレアナ」で異彩を放った田中哲司に期待して見に行った。今回はどこにでもいそうな普通のおじさんを、しかし、ちょっと異色とも言える雰囲気を出しながら演じて見せたのはまあ、よかった。それよりも、私生活でも仕事の上でも人には言いづらい日常を抱えるヘルパーを演じた麻生久美子が、出色の出来だったと思う。