満足度★★★★★
世代を超えた微妙な空気
まず最初に思ったのは、この小説はとても演劇的な作品だったと再発見させられたこと。スペース雑遊のような濃密な小空間で上演するのにふさわしい熱量を持った小説だということだった。
原作は昭和30年代の若者たちの群像劇。これを今の若者たちが演じるわけだ。舞台からは当時の若者たちの熱さはガンガンと伝わってくるのだが、何だか微妙な空気感も流れている。何だろう、これは、とずっと思っていた。
帰りの電車でパンフレットに書かれている役者たちの感想を読んだ。この作品(台本)を読んだときの印象が書かれている。おそらくみんな20代の俳優たち。
「何か小難しいことで悩み、議論し合っているのが最初の印象」(三上陽永)
「正直、初めて読んだときは、全然理解できませんでした」(森田ひかり)
「最初はとても難しい本だと思いました。専門用語が出てきたり、時代も古いし」(池之上真菜)
「どうしてここに出てくる人たちはこんなにコロコロと変化し、面倒くさいんだろうと、共感を持てませんでした」(佐川健之輔)
それで分かったぞ。この微妙な空気感。青春の門を演じるとは、そういうことなのだ。この作品の空気感にどっぷり浸かれる世代はもう、今や高齢者である。高齢者には演じられないから、若い世代が引き継ぐわけだが、何とその難しいことか。空気感を受け継ぐというのは至難の業なんだね。
だが、舞台は素直に面白いと思った。この微妙な空気感のずれも楽しめた。濃密空間の小劇場マジックかもしれないが、とても満足できた。
今度は筑豊編から続けてやってほしい。是非とも要望します。