この素晴らしき世界 公演情報 ペテカン「この素晴らしき世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    家族のハーモニー
    祝20周年!
    さすが20年、ペテカンは外れなし。

    役者さんたちいいし、きちんと笑わせてくれる。

    多めの笑いの中で、見ている人に家族のことを思い出させ、考えさせる作品だった。

    ネタバレBOX

    「家族とは、一体何なのだろうかっ!」と大上段に振りかぶることなく、どこにでもありそうな家族の姿を描く。

    どこにでもいそうな家族に、ほんの少しだけあり得ない波を立ててみせる。
    その波が、家族に伝わり、それによって起こった(他人から見れば、ほんの小さな)波紋を、笑いとともに描いていく。
    ペテカンは、そんな話が得意だ。

    今回の「波」は、「父親の一周忌に披露宴をあげる」というものだった。
    たぶんそんなありそうもない設定からストーリーが広がっていったのではないだろうか。

    「なぜ、そんな日に披露宴をあげるのか?」「父親と子どもたちの関係は?」「父親と母親の関係?」と観客に疑問が起こり、ストーリーが広がっていく。

    と言っても、“他人から見れば”ほんの小さな波風なので、基本、「いい家族」なのである。
    少々変わり者の父親・大治幸雄さんが、生まれた子どもに一瞬見せる笑顔なんて、とってもいいのだ。 

    兄はもういい歳になった(笑)の妹を可愛いと思うし、弟も兄とは結構仲が良い。
    彼らの母も少し変人な父を好いているのは間違いない。
    父親に反発していた息子たちも、父親のことは嫌いではないようだし、クセまで受け継いでいる。

    父親の方針で、誕生日などの記念日を特に祝うということをしなかった家の子どもたちなのに、その父親の「一周忌」という一種の「記念日」にこだわっている、という設定が面白い。
    そこからも、彼らの息子たちの父親に対する気持ちがよくわかるし、そんな日に披露宴をしたいと思う娘もまた、父親のことを思ってそうしようとしているのだ。

    だから、互いに揉めているようで、実は“他人から見れば”仲の良い兄弟の、害のない兄弟妹げんかなのだ。

    ただ、“倒れた”母親のことを、あまりにもないがしろにしているように見えてしまうのには違和感があった。
    子どもたちは母親のことも当然好きなのだから、いくら母親が「披露宴は続けて」と言い残したとしても、「屍を越えて行け」と言ってるわけではないので(笑)、もっと大騒ぎして病院に行くべきだったのではないか。あるいは、それは無理だとしても、もっとザワついているべきではなかったのか。

    もちろん、男兄弟たちは、“弱い”から(母親のそんな姿を見たくないから)、“行くことができない”というのもわかるのだが。

    そう、登場人物たちを見ていると「男が弱い」。
    息子たちは、父親の弱った姿を見たくないから、お見舞いにも顔を出さなかったという。
    だから、母親が倒れても病院には一緒に行かなかったのだろう。
    としても、そのことにあまり触れないのは違和感を感じる。頻繁に連絡をとろうとするのではないか。披露宴がどうなるか、なんてことよりも。

    さらに、元アル中で、虚言癖のあるおじさんも弱い人だ。
    披露宴場の男性従業員も弱い(笑)。

    それに対して女性は、控え目のようであっても言うべきことはきちんと言う。

    ラスト近くで母親が父親に対して「食事は家族で一緒にとる」とキッパリ宣言するところなんて、強いなと思う。
    披露宴場の女性従業員は、文字通り尻を蹴っ飛ばして、恋人を叱咤するし。

    本当にいい家族だったんだな、とわかるラストには、少しグッときた。
    あまり上手くない(笑)演奏もリアルだし。

    このストーリーで唯一苦い味がするのは、“子ども”を巡るエピソードだ。
    こんなに仲が良い兄弟妹(子どもたち)なのに、子どもには今のところ恵まれていない。
    とても悲しいエピソードである。
    キューピー人形のエピソードも、一見面白雰囲気がありながらも、笑えない。

    新たな生命の予感を見せつつも、この「子どもエピソード」が、未消化な感じがしてしまう。
    結論めいたことは必要ないが、3人の“仲のいい子どもたち”が物語の中心にあるのだが、そこのところとの絡め方は大切だったのではないかと思うのだ。
    そこがピリッとすれば、この作品はもっと輝いたのではないかと思う。

    母親役の桑原祐子さんが、とっても良かった。
    愛があるのだ。
    ラスト近くでの食卓を囲むシーンなんて、家族を包み込むような愛を感じた。
    夫に対しても、(変わった人だけど)やっぱり愛を感じるのだ。
    何気ない台詞にそれが込められているのが素晴らしい。

    一見デコボコしているような家族だけど、音楽の演奏とは異なり、「家族はデコボコしていてもハーモニーを奏でることが出来る」、そんなストーリーだった。

    家族の温かさとか良さをジンワリと感じさせる作品なので、多めの笑いの中で、見ている人に家族のことを思い出させ、考えさせたのではないかと思った。

    どうでもいいことだけど、上演中の携帯のバイブ音。「前のほうで誰か鳴らしているな」とイライラしたのだが、舞台の効果音だったと気が付き、思わず笑ってしまった。
    そこ、扱い方によっては、面白くできたんじゃないかな。もったいないと思った。

    あと「劇団の俳優ネタ」は自虐なのだろうか、客席では苦笑が起こっていた。
    苦笑していたのは、小劇場の役者さんたちや関係者たちだったのかもしれないのだが(笑)。

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    2015/10/13 07:27

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