手のひらを 透かしてみれば 公演情報 企画室磁場 「手のひらを 透かしてみれば」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    テンポの良い台詞の応酬がいい
    たぶん、相当きちんとした練習を積んだのだろう。
    台詞自体も丁寧に吟味したあとが伺える、言葉がある。
    しかし……

    ネタバレBOX

    受付の対応からこの団体のきちんとしたところが感じられた。
    全体的に落ち着いている印象で、(やや)大人の劇団という感じがとてもいい。

    さて、作品だが、丁寧に作られているのがよくわかる。
    役者の台詞のやり取りがとてもスムーズでいいのだ。
    単にスムーズというのではなく、会話としてのテンポが小気味いいのだ。

    きちんとした演出により、練習を重ねてきたことがよくわかる。
    そして、台詞自体もとても言葉がいいのだ。
    時間をかけて吟味したのではないかと思わせる。

    しかし、残念ながら、内容に深みを感じられない。


    一見、彼を取り巻くさまざまな出来事についてをテーマにした作品に見えてしまうのだが、そうではない。

    つまり、これは、シャッター商店街の生き残り策の話でもなく、結婚、恋愛の話でもなく、ましてや日本のエネルギー政策や、イラン、イラクの中東の戦争の話ではない。
    つまり、主人公の心のありようを、それらを通して描いているのだ。

    スムーズな会話は、主人公の心情をよく表していたことに気づかされる。

    自己中心の主人公は、会話はスムーズで淀みがない。
    そのことは、彼の頭の回転の速さを表しているのと同時に、「何も考えてない」ことを表していたのではないか。

    つまり、話を合わせているだけで、自分にとって「利」があるかどうかが大切なのだ。

    商店街の人と一緒にやって行こうと行った口で、会社の方針だからと彼らを切ってしまう。
    それは、一見、“会社の都合なので”という理由で述べているようで、本当のところ、商店街の人のことを本気では考えてなかったことがわかる。もちろん、“仕事”としては、本気で商店街を海外にアピールして良くしたいと考えていただろう。しかし、“彼自身”が本心からそう考えていたのではなく、あくまで“仕事”だったのだ。

    友人から会社の不正を聞かされ、それに荷担しない選択をしたのも、友人や会社、ましてや社会のことを考えたのではなく、自分のことを考えていたにほかならない。
    だから、エネルギー関連の上司からの誘いには喜んで乗るわけだ。
    恋人との関係も同じ。

    結局、「人を簡単に切り捨てることができる男」の話なのだ。
    それは、詰まるところ、主人公、いや現代人の、心のありようの問題だと、この作品は言いたいのだろう。

    とは言え、「何言ってるんだ。深刻なのは、お前ではない」と主人公に言いたくなるほど、彼はイヤなヤツだ。
    主人公にかかわった3人は、本当に大変なことになっている。彼らの言葉は、実は主人公自身の心の声ではないか。

    主人公は身勝手に彼らを切り捨て、勝手に苦悩している。
    自分自身のそうした姿に苦悩しているようには見えてこない、という部分で作品のテーマを見せることに成功しているとは思えない。

    現代人の心のありようの問題であれば、彼の姿は我々自身なのだろう。
    イヤな醜い姿が我々なのだ。
    そう感じさせてほしかった。

    冒頭のモノローグは、役者自身が気持ち良さそうなだけで、イマイチ伝わってこなかった。
    ラストのモノローグは、先に書いたとおりに「何言ってるんだ。深刻なのは、お前ではない」という感情が出てしまい、苛ついてしまった。

    モノローグなんていう安易な方法をとらずに、台詞のやり取りだけで、見せてほしかった。
    戯曲の感じや演出の丁寧さから感じる、この作・演の方の力量ならば、それを十分にやれると思った。

    ……一点、主人公と恋人との会話で「こらぁ」っといいながらぶつ真似をしてみせるという、あまりと言えばあまりのシーンには、観ているこちらが赤面してしまったが(笑)。

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    2015/10/05 08:33

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