深海大戦争 公演情報 パラドックス定数「深海大戦争」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    野木戯曲は現代の問題を、深海からぐっと力強くつかんでくる
    結構驚いた。

    まだご覧になってない方で、これからこの作品を観劇する予定のある方は、ネタパレは読まないほうがいい。
    熱湯ナントカのように、「押さないで、押さないで」と言って押すというネタフリではなく、ホントに読まないほうがいいと思う。

    ネタバレBOX

    フライヤーのイラスト通りの物語であった。

    しかし、ラストには驚いた。

    いきなり暗転して、暗い中、しばらくして主宰の野木萌葱さんが登場し、「えーっと」っと話し出したのだ。今回の顛末を。
    どうやら、「もっと書きたい」ということらしい。

    前説のときの、いつもの男前の野木萌葱さんではなく、少し噛んでいたのは、前説の最後に面白いことを言うので緊張していたのではなく、こういうことだったのかもしれないと思ったりもした(笑)。

    にしても、今回の幕切れにはシビれた。
    野木萌葱さんの登場に、「えっ!」と声を出してしまったかもしれない。

    物語では、深海における“海の覇者”を巡る、“大王”の名前を冠したイカと、それをも食料にして深海での食物連鎖の頂点に立つマッコウクジラとの大戦争が描かれようとしていた。

    そこに、マッコウクジラに従うシャチと、物見遊山で南極からやって来た、これも“皇帝”の名を冠したペンギンが絡んでくる。
    さらに“氷山”までもがストーリーに加わる。

    「大戦争」と言いながらも、実はマッコウクジラからの一方的な戦いであり、ダイオウイカと全面戦争になっているようではない。

    シャチにそそのかされて、自分の領土を侵害されてしまうという危惧に憑き動かされてマッコウクジラが戦いの火ぶたを切るのだ。
    “王国”とか“王子”とか、そんな言葉が出てくるので、どこかシェイクスピアな香りがする。

    しかし、内容はそうではなく、物語には現代の問題が孕んでいるようだ。
    単なる動物ファンタジーではなく、かつ問題を声高にしないところに、作の野木萌葱さんの非凡さを感じる。

    マッコウクジラにとっては、「自衛」のための「正義」の戦いであろう。
    つまり、海に落ちた「鉄の鳥」を手にしたダイオウイカに対しての恐れと、さらに皇帝ペンギンとの軍事同盟を結び、北極を我が者にしようと企んでいるというという、猜疑心を増幅させるデマからの戦いであり、「鉄の鳥」とは、「大量破壊兵器」であって、まさに「イラク戦争」の発端と似いてるのだ。もちろん「鉄の鳥」をダイオウイカたちが使えるわけもなく、戦争のきっかけは捏造されたところも「イラク戦争」だ。

    さらに、ダイオウイカ側から和平のテーブルには、その「鉄の鳥」が示される。
    マッコウクジラ側から見れば、「鉄の鳥」は大量破壊兵器なのであり、ダイオウイカ側からは「抑止力」の効果を期待している。

    しかし、抑止力は働かず、抑止力だったはずの、「鉄の鳥」の「卵」が使われてしまうことになる。
    水中で炎を上げる「卵」とは、原子爆弾ではないか。
    それが投げつけられところで、この舞台は終わる。

    ダイオウイカは、マッコウクジラの餌であるから、マッコウクジラ側は同格ではないと思っている。
    この2国の関係は、南北問題を示唆しているように感じた。
    貧者の国の安価な兵器が、放射能だったわけだ。

    1つの国がもう1つの国を隷属し、餌=喰いモノにしている。搾取だけして。
    さらに言えば、世界の頂点に立つ国の傲慢さもあるし、1人の男がそれを牛耳ることの恐さ。
    つまり、臣下の甘言1つで世界は争いの中に巻き込まれてしまうということだ。
    (ファンタジーって、「王国」ですよね? 王様とかお姫様とか。「民主主義」がベースののファンタジーってあるのかな? 笑)

    確かにこの作品にはまだまだ掘り下げられる物語がありそうだ。
    全世界が放射能汚染によって破滅するのではないかということを暗示するようなラストから、後編では、何か光明が見えてくるのかが、気になる。
    あるいは広がりが。

    「進化」とか「知恵」とか、そういう方面にも内容は広がっていける。
    「現代の問題」から、さらにもっと、深いところにある、「人間の過ち」の「原点」「原罪」のようなものへと物語は転がっていくのではないか。


    この作品のオープニングは無言劇だった。
    ダンス的な雰囲気があり、「椅子取りゲーム」で「自分の居場所」を確保するというもの。
    椅子の数は決まっているから、座れる者の数は決まってくる。
    お宝のようなものを配って、椅子を確保しようとするが、拒否されるたり、受け入れられたりすることでこの物語が始まるのだ。
    「生き残れる生物」の椅子の数は決まっている、ということなのだろうか。

    深海生物を演じた役者さんたちの動きがいい。
    シンプルな衣装も効果的だ。
    シャチには、白い線とか入れて欲しかったかな。

    「鉄の鳥」はダイオウイカにとっての、モノリス(2001年宇宙の旅の)の役目を担うのかな、と思っていたがそうではなく、「卵」というもっと具体的な脅威を手に入れることになったのだ。
    (進化のための)「知恵」と一緒に授けてもらえれば、違ったのか。
    いや、「知恵」があるから、人間はこんな「卵」を作ってしまったのだ。

    氷山を演じた(笑)植村宏司さんが、声がいいからとても渋くで賢者な雰囲気があった。
    ダイオウイカの弟を演じた小野ゆたかさんは、まさかまったく台詞なしなのか? と思っていたが、やっぱりあった。前半は、台詞がないから、表情を大きくすることで感情を表現していたので、つぶらな瞳が愛らしいダイオウイカだった(笑)。口を尖らせて理屈っぽいとこ言うのかと思っていたが(笑)。
    シャチを演じた西原誠吾さんは、こういう役柄がぴったりで冷酷で感情を抑えていて、頭も切れそうで、「俺はこんなところにはいつまでも安住してない」感がヒシヒシと伝わってきた。
    皇帝ペンギンを演じた兼間慎さんは、パラドックス定数では今までいなかったキャラなので、軽みが新鮮。

    全般的に笑いが多く、そこもこの作品が好きな理由となった。

    こう言ってしまってはナンだが、この作品のもとになったのは、「大王イカ」の“大王”ではないだろうか。
    でも、ダイオウイカはマッコウクジラの餌だし……じゃ海の大王は誰なのか? ってことから。

    にしても、『外交官』(青年座)で戦争の始まりを描いて、今回の『深海大戦争』で戦争の趨勢を描き、次回作が戦後、戦犯を裁く『東京裁判』という流れは出来すぎでは(笑)。


    後編が強く待たれる。

    ★の数はあえて4つとした、残りの★1つは後編に預ける。

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    2015/09/09 07:01

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