伝奇浪漫「芳一(ほういち)」 公演情報 劇団め組「伝奇浪漫「芳一(ほういち)」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    総合力の高さが評価できる舞台
    入る早々舞台美術に目を奪われた。吉祥寺シアターは、天井タッパも高く出演者の人数や作品内容との兼ね合いでキチンと計算しないと隙ができる。それを美的にも空間的にも内容的にも見事にマッチさせて更にセンスを感じさせる空間処理、絵柄、大道具のレイアウト等に感心したのである。照明、音響、演出も良い。

    ネタバレBOX

     
     古語の用い方なども、かなり練習を積んでいるのが見え、流石に幼児の頃から修練を積む古典芸能の役者には敵わないものの、良い印象を持った。中心になる崇徳院役の新宮 乙矢、土御門家傍系で陰陽師の倉橋役、藤原 習作、芳一役、秋本 一樹そして不具の体にコンプレックスを持ち乍ら、健気に生きる和宮を演じた辻谷 奈緒の演技は殊に気に入った。
     物語は、平安末期に起きた保元の乱(1156年)に敗れ、讃岐に島流しにされた崇徳院の写経が、都に受け入れられなかったことにより、院が朝廷を呪い憤死したこと、彼が大魔縁となって皇室を転覆させようと呪ったことに端を発する。然し、崇徳院は天皇になった段階でも不遇であった。というのも、父、鳥羽天皇の第一皇子とされながら、実は曾祖父、白河法皇と璋子の密通の結果の子とされ、父からは疎まれ続けたからである。史実として正しいか否かは兎も角、本作では、この説がベースになっている。
     また、平安時代末期は、北面の武士が登場した時期でもあり、保元・平治の乱以降伸長した平家の短い栄華の後、頼朝によって1192年には鎌倉幕府が成立、以降1868年迄、武士の世が続く先駆けとなった時期でもある。
    さて、時代は下って孝明天皇の慶應2年(1866年)、黒船来航以来、天下は上を下への大騒ぎ。朝廷とて時代の流れと無縁ではなかった。実権の無い公家は、尊王攘夷を掲げる薩長と組む方が得策と判断する者、公武合体などを通して幕府とこれまで通りの付き合いをしながら貴族の言い分を聞いて貰おうとする者に二分されていた。公武合体に際し、人身御供とされたのが、孝明天皇の妹、和宮である。彼女は、生まれつき片足が不自由でびっこな上、片方の手首から先が欠損したハンデキャップであった。血の濃い親族結婚を繰り返して来た皇室には、結構、ハンデキャップを持った皇族が多かった証でもあろう。だが、幕府は安政の大獄を実行した井伊直弼らが中心となって和宮降嫁による幕府の権威失墜回復、朝幕の関係改善アピール、そして尊王攘夷派に対するエクスキューズを同時に目指したのであった。
    然し、和宮自身は、乗り気でなかった。何故なら和宮はハンデキャップ、朝廷にあればこそ、天皇の権威を慮る慣習によって侮られずにすむものの、幕府へ下れば其の保証はないこと、また、一度も遭ったことは無いながら幼児の時から定められた書道の家としての婚約者、有栖川の宮の書を手本として、書に親しみ、其の文字に宿る人柄に恋してきたからである。この女心の純情がいじらしい。
    さはさりながら、歴史の無常は、総ての人物を押し流してゆく。天皇家に対し「皇をとって民となし、民を皇となさん」と呪った崇徳院の蘇りは、一途な愛故の和宮の命懸けの祈念であった。彼女は、自らの叶わぬ恋を崇徳院の歌(瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ)に託したのだった。霊魂を蘇らせる力のある場所、一条戻り橋上で。
    蘇った崇徳院の魂は、歴史に関与し始める。和宮の命を守り、乱世の到来を防ぐべく立ちあがった二人、陰陽師、倉橋と崇徳院・源平の兵どもの荒ぶる魂を安んずべく七百年の時を越えて旅する芳一が、崇徳院の荒ぶる魂と対峙する。

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    2015/08/03 20:12

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  • シナリオもしっかりしているし、演技・演出も良いものでした。無論、コリッチ評で述べたことも含めて、全体的にレベルの高い作品です。星4つは、古典芸能も観ている者としての評価です。

    2015/08/03 20:27

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