スィートホーム 公演情報 トム・プロジェクト「スィートホーム」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    少年
    14歳の少年が祖母と両親を殺害するという実際に起こった事件に想を得た作品。
    安易な楽観主義に陥らない展開は、暗いかもしれないがその分共感を覚える。
    これまでチョコが得意としてきた、“歴史上の大事件から個の感情へフォーカスする”
    ダイナミックさは無いが、きわめて個別の、特殊なケースの中に私たちとの共通点を見出す、
    繊細な作品になった。
    西尾さんの役が、「親愛なるわが総統」と終始ダブってしまったのは私だけか?

    ネタバレBOX

    上手に事件現場らしい居間、下手に一段上がって
    殺風景な机とパイプ椅子のある部屋…。
    劇場に入ってすぐ、現在と過去のいきさつが交互に描かれるのだろうと想像した。

    両親と祖母を殺害した少年は、少年院を出る日が近づいているが、
    後悔しはているものの、奪ったものの大きさに今一つ思い至っていないように見える。
    そしてただひとり生き残った祖父に、彼を受け入れる気は毛頭なかった。
    少年院で彼を見守り続けた精神科医は、敢えて祖父に少年との面会を強く要請する。
    最初は拒んでいた祖父もついに面会を承諾し、小さな部屋で少年と向き合う。
    だが最初の面会は「(おじいちゃんも)殺しておけばよかった」
    という言葉でさらに亀裂を深くする。
    精神科医は、少年の言動を更生のプロセスとして受け容れ、祖父に理解を求める。
    祖父は「いったいあの時何があったのか」と初めて当時の少年の立場に思いをはせる。
    それは、すれ違う家族の感情を一身に受け止めるという、
    14歳の心には過酷な日々だった…。

    祖父を演じる高橋長英さんの演技が落ちついていて、舞台に安定感が増す。
    揺れに揺れているはずの心中を、時に露わに、時に沈痛な表情で豊かに表現する。
    孫に過剰な愛情を注ぎ、嫁と奪い合う祖母を演じた大西多摩恵さんが素晴らしく
    ねっとりとまとわりつくような、うっとうしい愛情を見事に声にのせる。
    常に自分の理由を最優先する世代ともいえようか、
    短絡的な行動に出た少年を演じた辻井彰太さん、
    最初、“同級生にけがをさせて反省している”ような顔をしていた彼が
    ラスト、墓参に通う彼を待っていた祖父と再会する場面で、
    爆発するような苦渋の表情を見せる。
    この変化が鮮やかで素晴らしかった。

    祖父と少年の間に横たわる深い溝を埋めようと奔走する精神科医を演じる西尾友樹さん、
    情熱を持ち、辛抱づよく温かいアプローチを続けるキャラがぴったりなのだが、
    どうしても昨年観た劇団チョコレートケーキの「親愛なるわが総統」を思い出してしまう。
    戦後収監されたアウシュビッツ強制収容所の初代所長ルドルフ・フェルナント・ヘースの
    心の底深く分け入っていく精神科医の役だった。
    理想の人間像とはいえ、よく似た人物造形であったこと、
    せっかくの味わい深い台詞が少し早口だったことが気になった。

    「母と祖母の間で板挟みになる少年の立場に立って考えてみてください」
    という精神科医のアドバイスで、家族を顧みなかった祖父が初めて当時の状態を知る…
    という展開は、ちょっと中学校の道徳の時間みたいな印象を受けた。

    過去と現在を行き来しながら、死者の声も織り込むという構成は
    奥行きが出てよかったと思う。
    いつものチョコレートケーキのごつごつした手触りが、すこし角が取れた感じだが
    この少年がモンスターでもなんでもなく、私たちと多くの共通点を持つ
    感情の持ち主であるという温かなまなざしが感じられて、
    こういう視点を持つ作者に尊敬の念を覚える。




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    2015/02/11 02:51

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