満足度★★★★★
圧倒的な舞台
壮絶な運命に直面する家族を通じて人間の尊厳を問う作品で、脚本・演出・役者のいずれも素晴らしく、3時間を超える上演時間を意識させない強い求心力がありました。
男女の双子の母親が晩年に突然喋らなくなってそのまま死んでしまい、遺言に従って父親およびその存在を知らされていなかった兄を探すエピソードと、母親の過去のエピソードが展開し、衝撃的な事実が明らかになる物語でした。
理由・原因を遡及して行くやりとりが2度あり、その終わりのなさに空しさを感じました。最後に明らかになる事実は途中で何となく分かってしまいますが、その事実自体よりもその事実に対する反応が丁寧に描かれていて、強く心を打ちました。
一番最後の絵面が宗教画のようで美しかったです。
土で覆われた勾配のついた床しかない空間で、2つの場所・2つの時代が交錯しながら、時には同時並行で物語が展開するものの、照明で巧みにエリアをフレーミングして分かり易く描かれていました。
物語としてはとても重い内容ながらも、謎が少しづつ明らかになって行くミステリー仕立ての構成や、1人で10代から60代まで演じたり、複数の役を演じたり、場面転換に工夫があったりと、あざとくならない程度に趣向を凝らした演出があって、演劇として楽しかったです。特に効果音に複数の意味が掛けてあり、同じ音が異なる場面で違う意味合いを帯びさせていたのが印象的でした。
BGMとして使われていた音楽が悲劇を無闇に盛り上げる大袈裟なものではなく、明るさや希望が感じられるピアノ曲だったのも良かったです。
7人の役者だけでスケールの大きな世界を表現していて素晴らしかったです。特に岡本健一さんは多くの役をそれぞれ説得力のあるキャラクターとして演じていて良かったです。