満足度★★★
死者は自ら遺書を読むことはできない
今秋の最も期待される役者人、演出の舞台でしたが、正直この舞台を日本でやるのは難しいと思いました。主人公ナワルの死後、遺言代理人から、双子の姉弟に、遺言として2通の手紙を自分たちの父と兄に届けるようにとの指示の元、中東の母の生地に赴き、結果的に、母の衝撃の半生と、自分たちの出生の秘密を知ることになる。最後のクライマックスで、その父兄に宛てた2通の手紙が読まれるのだが、舞台上では、死者であるナワルが現前として、その遺言を滔々と読むのである。この演出は、死者が葬式の場で立ち上がり、遺言を自ら読むような光景で正直気持ちが悪かった。映画と同様、死者は飽く迄過去の回想の中でのみ存在し、手紙の場面ではナワルは音声のみという演出にできなかったのだろうか?これでは、生者である双子の姉弟が真実を知って、母の心を知り、母の死と子供達の再生という演劇的カタルシスが台無しだったと思う。