『穴の中 或は、■の中』ご来場ありがとうございました。 公演情報 演劇ユニットG.com「『穴の中 或は、■の中』ご来場ありがとうございました。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    穴の外
    劇場の機能を100%活かした演出が素晴らしい。
    床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、トイレやエレベーター、
    劇場入り口のドアに至るまで、劇場の全てが無理なく役者の動きに組み込まれている。
    不条理っぽい出だしをいたずらに引っ張らず、巧みに状況を説明すると
    そこから普遍的なテーマをびっくりするほどストレートに問いかけてくる。
    ピザ屋よ、あなたのそのまっすぐな声が3人の、いや“神”も含めて4人の
    価値観を変えたのだ。

    ネタバレBOX

    受付を済ませて階段を降りるところから、もう既に“危険な世の中”が始まっている。
    開演直前、ひょっとこの面をつけた黒子がひとつずつ■い穴のふたを外して行くと
    ついに5つの穴が口を開け、スモークが漂ってくる。
    ひょっとこの思わせぶりで儀式のような動きに期待が高まる。
    開演前に珍しく何人かの客がエレベーターで劇場に降りて来て、案内されていた。
    後から思うとエレベーターの存在を何気にアピールする、あれも演出だったか?

    暗転ののち、そのエレベーターで宅配ピザ屋(菊池豪)が降りて来る。
    声をかけても誰も出てこない、と思うと穴のひとつから白衣の男(志村史人)が顔を出す。
    そしてなぜかピザ屋は拳銃のようなもので胸を撃たれ、手錠をかけられて
    彼の穴に監禁され、謎の男は嬉々として出て行く。
    半狂乱のピザ屋に助けは来ない。
    やがて他の2つの穴から“マダム”(佐藤晃子)と“殿様”(吉田朋弘)が出て来る。
    どうやらさっきの男は“博士”で、何かの研究をしていたらしい。
    やがて博士の研究が“不老不死”の薬の開発であること、
    穴の住人が何百年、何千年と生き続けていること、
    なぜかこの穴に居る限りそれが可能であることが解って来る。
    そしてあとの2つの穴には、それぞれピザ屋の同級生(内山真希)と
    “神”と呼ばれるものが住んでいた…。

    のっけから設定の面白さに釘付け。
    “不老不死”を至上の幸福と信じている人々に対して、
    「いつか死ぬと思うから頑張れる、永遠に頑張るなんてきっとできない」と言う
    ピザ屋の自己評価や人生目標、ジレンマは平凡だが、同時に極めて普遍的だ。
    その切々と吐露するように語る言葉が、リアルで説得力を持っていて素晴らしい。
    生きる意味や目的を追い続けるという人間の宿命の切なさ、しんどさに
    激共感してしまう。
    そう、私たちは皆穴の外で限られた人生を歩んでいるのだ。

    登場人物のキャラが思いっきり濃くて強烈なのも良い。
    みんな何かに追いつめられていて、その切羽詰り具合が観ていて可笑しいのだが
    緊張感の合間に台詞の面白さが効いていてくすりとさせられる。
    終盤、全身白タイツの“神”がついに穴から出て来てピザを食べるところでは、
    ひと言も台詞がないのにその動きと素晴らしい“間”に大いに笑った。
    そしてその直後に見せる“神”の選択…。
    観る者に深い問いかけが残るような展開が秀逸。

    床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、エレベーターもトイレも出入口も
    劇場空間の機能全てが駆使された作品。
    照明の変化が謎をいっそう深め、
    ばらまかれた不老不死の試作薬は闇に浮び上ってこの上なく美しい。

    構想、脚本、演出、役者、全てがバランスよくそろって大変楽しかった。
    ”殿様”、あの「越天楽」カッコ良くて最高です!

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    2014/08/16 23:30

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