満足度★★★★
舞台美術も必見
作・演出の“えのもと ぐりむ”が、若者を起用したのは大正解であった。何故ならシナリオの内容と彼らが追い詰められている命の、閉塞感、遣る瀬無さが、マッチしているからである。言い換えれば、若者が生きている時代と生活している場所は、今作に描かれた時と場所なのであり、其処から脱出する為の若者らしい武器といえば、未だ傷つきやすいナイーブさと汚れ切ってはいない純粋性、そして夢を夢見るあどけなさだけであるのだから。リストカットでしか、存在していることを確かめられない空虚感、自らのアイデンティティー崩壊の音を聞くことさえなく崩壊していた存在の原点、棹差そうにも、棹だけあって川が無く、川だけあって手段の無い夢幻地獄。夢幻であることは理性で知るが、感覚で納得することは、このオーダーからは永久にできない、という数学的確かさ等々をミルフィーユのように重ねて、唯虚しく日が暮れる。これを地獄と呼ばずして何と呼ぼう。
だが、これら絶望の無限の連鎖の果てに、若者は尚、出発する。この出発の何と言う無謀、そして哀しい美しさ! 鯨の歌が、流れる。埋め立てられる危機を背負った辺野古や沖縄の海に。
大道具さん、スタッフの方々、見事な舞台美術、お見事。ドアの開閉音が、船材の軋みに聞こえるのもグッド。