ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇 公演情報 シアターオルト Theatre Ort「ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    リーディング『銀河鉄道の夜』を観劇:<追記あり>
    ※最初のコメントには私の誤認もあったようなので、「ネタバレ」に追記しました。 (誤認したことも劇体験の内と考え、最初のコメントは訂正していません。)

    リーディング公演と言っても、練られた演出が素晴らしかった。

    どこまでが演出で、どこまでがアドリブなのか、キワキワの感じもとても刺激的だった。言葉に詰まったり、読み間違えそうになったりするのは、ミスなのか、それともミスを演じているだけなのか?
    また、そのミスにフォローしたり、ツッコミを入れるのは、アドリブなのか、その対応すらも決まっていたことなのか?

    いずれにしても、すべてが計算されているようにも、すべてがアドリブのようにも見えるというのは、出演者の皆さま一人一人の演技力のなせる技だと思う。
    全員が、本当に素晴らしかった。
    中でも、ラストシーンの平佐喜子さんに強く惹きつけられた。

    今公演の中にある、ある意味でのジャズのような在り方(偶然性やドキュメンタリー性の取り込み方)には、
    演劇の未開の可能性があるように感じた。
    (実験演劇における偶然性やドキュメンタリー性の取り込み方とは別の、役者の演技力に裏打ちされたそれらの取り込み方という意味で。)

    満足度:☆5を付けたのは、
    素晴らしい作品を観て満足したというよりは、
    この作品にしかない可能性を見せてもらったという意味あいが大きい。

    ネタバレBOX

    <追記>2014.4.12.

    指摘をいただいて判ったのだが、どうやら、今公演は割と脚本に基づいているものらしい。私はまんまと騙されたという訳だ。
    それを知って、尚更、役者さんたちの演技力と、倉迫康史氏の演出力に驚いた。
    前提として、平田オリザ氏の脚本の上手さがあるのは当然だが、フェイクドキュメンタリー的な手法は、殊更真新しい手法でもないし、ヘタな演技や演出では、観ていられない程、嘘くさくなる。それを「アドリブかもしれない」と思わせてしまうというのは、相当な力だと思う。

    一般的な「演劇」とは、嘘を観客に信じさせるものである。そこでは、事実がどうかではなく、そこで観客に受け取られたものこそが真実となる。
    そういう意味では、私が最初に書いたコメントに間違いはないし、
    この公演の嘘のつき方は、ある真実を起ちあがらせていたということになる。

    私が「ジャズのような在り方」と書いたことも、単なる誤認でもないと確信している。勿論、それが偶然性やドキュメンタリー性の取り込み方の問題ではなかった点は明らかな私の間違いだったけれど、脚本や演出の手を離れて、役者さんたち1人1人の個性が舞台上で輝いていたという点は、楽譜や指揮者を離れて演奏者の個性が噴き出すジャズの在り方のようであったと今でも思う。
    もはやそれがアドリブによるものか、計算されたものかどうかは、どちらでもいいのだ。

    このような芝居の在り方を、やはり他で観たことがない。どうしても、脚本や演出に役者が従属してしまう舞台が多いからだ。
    それを壊そうとすると、実験演劇のような構造自体の破壊(反転)を計るしかなくなる。それはジャズで言えば、フリージャズがそうしたように。
    だが、今作は、ある意味では、極めて芝居らしい芝居だったという訳だ。

    裏を知ったら、むしろ、この作品の質感がどこから来るのかの謎が増した。
    そのことによって、この作品の可能性を、更に考えさせられてしまう。

    いずれにせよ、素晴らしい作品だった。


    <「追記」の「追記」>

    この作品の可能性を、再度考えてみた。
    この作品では、「偶然性」を取り込んではいなくても、観客に「偶発的に起きているのかもしれない」と思わせる「ドキュメンタリー性」が場に成立していたと言える。

    そこで重要なのは、「リーディング公演」という要素。
    この形態によって、多少の嘘くささも、ミス(読み違え)かもしれないと観客に思わせることができる。普通の公演よりも、観客側の意識の中に、現実と虚構との間のノリシロができているのだ。このノリシロが時にクッションとなり、時に想像力を刺激するものとなっている。

    「リーディング公演」というと本公演を打つのには、お金も時間もかかるから、料金も下げて、番外公演とするというものが多いが、この公演では、リーディング公演そのものの可能性を追求しえていたと言えるだろう。

    そういう意味で、倉迫康史氏の演出能力(この脚本を選んだということも含めて)も凄いと思う。

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    2014/04/11 12:17

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