シフト 公演情報 サンプル「シフト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    サンプルの原点にして帰還点
    2007年に、「青年団リンク サンプル」として初演された作品の
    再演。当劇団にとっては事実上の処女作に当たります。近年の
    作品に比べると、物語の組み立てかたがしっかりしており、筋も
    見えやすい分、この劇団が一貫して追求しているものがはっきり
    分かりやすい内容になっています。正直、近作より面白かった。

    ネタバレBOX

    結婚してある旧家に住むことになった元教員の男。
    妻の家は、「オシラサマ」という神の白い子を誕生させた名家として
    かつては有名だったが、先祖伝来の土地にダムができ、立ち退きを
    余儀なくされて以来、零落。今では、周囲にも相手にされず、街から
    距離があることを幸い、隣家の男を中心に不気味なコミュニティを
    つくり上げて生活していた。「相撲」と称して乱交していたりします。

    窮余の一策として、妻の母親は、同じ旧家にあたる隣の家の男と
    関係を結び、「オシラサマ」を再び誕生させようとするが、過去からの
    近親結婚がたたり、不具の子どもしか生まれない。

    ということで、次に考えたのが妻の夫と母親がまず関係し、生まれた
    子どもと妻とが結ばれることで「オシラサマ」を誕生させようという計画。
    まぁ、完全に狂っていますね。

    当たり前なのですが、妻の夫は逆上。「自分は種馬なのか」と食って
    かかるのですが、妻の姉から返ってきた言葉が「種馬ですらありません。
    中和剤ですよ」。きついなぁ…。

    最後は、家の外にある大型商業施設「トピカ」に通いつめて、一家から
    浮いている姉が、そこの御曹司とくっつくという衝撃の展開を迎え、
    開発兼自分たちの住居をつくるために再度の立ち退きを迫るなかで、
    一家が現実逃避していく様を見せて終わり。そう遠くない日の破滅を
    予感させる物語でした。

    相撲の土俵を模した輪で大きく囲まれた舞台の上から吊るされた
    ガラクタの数々が舞台美術で、今のサンプルと比べるとかなり
    質素。というか、床にゴミが散らばっていない分、整然とした佇まい
    すら感じさせられますね(笑 吊り下がったガラクタを時折下ろしたりして
    小道具に使ってたりと、「観せる」だけのものに終わっていないのもいい。

    この作品には、後のサンプルを貫く全要素の萌芽が見てとれました。
    即ち、「狭くて歪な、外界とのつながりを絶って成立したコミュニティ」
    「そのコミュニティの中で絶対君主のようにふるまうリーダーと、命令に
    したがう構成員」「主に性的な要素を通じてつながり合っている関係」
    です。そのモチーフはじょじょに「擬似家庭」「擬似コミュニティ」と、
    形を変えて発展していくことになり、『自慢の息子』あたりでピークを
    迎えることになります。

    よどんだ気配をたたえ、ゆがみきったコミュニティが崩壊していく、
    あるいは再生していく過程を、まるで外部から実験レポートの
    ように感情を交えず、語っていくサンプル。本作は、その始まりであり、
    ある意味、最初の到達点でもあるのでしょう。

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    2014/03/17 09:18

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