満足度★★★★★
■「想い」が響き合い、伝えられていくことの感動
世代を超えて、住む世界を超えて、動植物の生物的な相違を超えて、とにかく「想い」は響き合い、伝えられていく。そういう稀有なメッセージを舞台空間という「スノードーム」に収めて魅せた創作演劇。
スノードームは、閉じられた空間であるし、単純な素材しか中には入っていないが、外から眺める者を決して飽きさせない。そとからゆさぶると、無限の動きが生じてくるからである。多様な変化が、めまぐるしく起こりつづけるという面白さや躍動感がある。
異なる世界を「ひとつの舞台」で描き出すには、観客の心の動きを想像力豊かに導く必要がある。その必要性を満たしているの点が今回の作品の凄さである。言わば「見立て」の巧みな活用である。落語などの際に、巧い落語家が閉じた扇子を用いて箸がわりに動かすと、ほんとうに御飯を食べているかのように見えてしまう。「扇子」という最小限の道具ひとつで様々な場面を多様なかたちで展開していく技術は役者と観客の双方のプロ意識によって洗練されていく(よい作品は役者と観客の認識の仕方の洗練によって生まれていく;目利きとして洞察力を鍛え上げることが重要になる)。
様々な登場人物の死が描かれる。しかし、彼女たちは決して滅びたわけではない。むしろ、大切な相手を活かそうとして愛情表現を究めることで穏やかな空気のように周囲全体をつつむ生き方へと昇華していく。本作は、まさに、雪が、ほのかな暖かさを残して溶けていくときのものがなしさを見事に舞台化した名作と言えよう。