あうろらの君 公演情報 ヅカ★ガール「あうろらの君」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ■まるで「雪の結晶」のように美しき作品。
     はじまりからして驚かされた。[敬称略で書く]あらかじめ配役表を見ないで、いきなり舞台を観ていた。すると、いつもは勢いのある役柄や穏やかな支え役を見事にこなす佐野綾が「老婆」役で登場した。その声色や振る舞いが、まさに老婆そのもので、「こういう役柄も、たやすくこなせてしまう役者だったのか」と。

     そして、追い打ちをかけるかのように、照明ライトの数々が舞台の上を照らしはじめると、雪の世界が一挙に立ち現れた。その巧みな舞台藝術にも度肝を抜かれた。冷え冷えとして美しい銀世界。巨大な椅子の他は何も置かれていないにもかかわらず、カーテンと床だけで氷点下の世界を一瞬にして浮かび上がらせたのだから脱帽ものである。しかも、その空間は、そのまま茶の間に早変わりしたりする。

     6人の役者たちが何回か舞台上に静止する場面があるのだが、その場面も左右対称に綺麗に立つわけで、その振る舞いそのものが美しく、さまになっていて、役者たちの息がぴったりで、構成的に素晴らしいと、観ていて思わず、うなりました。こうやって考えていくと、作者・演出の飯塚未生の才能の高さが明らかとなる。美しい雪の結晶のような作品を生み出す才能には、感心させられる。今後も期待している。

     「雪の女王」役の上埜すみれの威厳と慈愛の点滅するかのような転換の演技や繊細な感情表現さらには存在感が圧倒的で、堂々としていたのも印象に残っている。「ウツギトワコ」役もこなしており、普通の庶民の感覚を普通に演じており、人情の機微の巧みな表現も奥深かった。しかも、役者仲間や観客に感謝しながら一生懸命演技している様子が伝わってくるので、皆をまきこんで勇気づけてしまうという稀有な才能の持ちぬしなのだろう。

     「ザラメ」役のことうじゅんの役柄は、これまでのヅカ★ガールの諸作品の系譜と連続するかのような凛々しさと勇ましさを再び体現していたのだが、演技表現上の自己コントロールの「抑え」の効かしかたが緻密であり、知性的で、純粋さが増していたので、冷え冷えとした雪の世界の近衛隊長としてのキャラクターの面白さ(一本気な忠誠心と真剣な必死さが可笑しみを呼び覚ます)を最大限に表現していた。ダンスも洗練されていて、無駄のない動きの連続であり、素晴らしい。

     「アラレ」役と「少女」役を披露した木村海香の演技は初めて観たが、無機質な雪の世界の住人の動きと同時に妖精的な可憐さをも見事に演じきっていて、つまり矛盾する要素をいともたやすく一身に表現できてしまうという離れわざには驚嘆させられた。軽快なふりつけの舞踊や歌のユニークさも印象に残った。

     「山賊」役と「モリ先生」役の寿里のダイナミックな動きと控えめな動きの揺れ幅の大きさが主役級の活躍ぶりを見せていて、考えさせられた。まるっきり表情や振る舞いが変化していながらも、本人の天性の格好よさをも垣間見せる演技となっており、まるで三つ役をこなしているかのようで、見ごたえがあった。役者としての演技の多様さをとおして一貫した個性をも見せる高度な技術には心から拍手を送りたい。

     「ブチイヌ」・「警官」・「男」を演じた岡村惇裕の表現力の幅は格段に広がりつつも、一貫して他の役者たちを丁寧に見守りながら支える思慮深さに満ちていた。それゆえに、その「男気」というか「頼もしさ」には感銘をおぼえた。相手を支えて、自分は目立たないように謙虚に振る舞いながらも確固とした実力を備えてきた新境地の役者として今後が楽しみである。ドイツ文学や思想にも造詣が深く、作劇や演出や監督もこなす創造性豊かな岡村の活躍に大いに期待している。

     ほんとうに素晴らしい作品に感謝している。

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    2014/02/20 21:54

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