満足度★★★★
観客もまた誇りを持って
「観劇してきた」というよりは、「陪審員として裁判を体験してきた」という方が相応しいでしょう。
敵軍の捕虜となったロシア軍の将校7人は、地下牢に閉じ込められ、水も食料も与えられないまま置き去りにされてしまいます。60日後、ようやく味方に救出された生存者は2人。彼らはいかにして生き残ったのか。生存者の1人ヴァホフ大尉の証言によって、仲間を1人ずつ殺し、その肉を食らって生き延びてきた様子が、時に生々しく、時に激しさを持って語られます。
人が人を殺して肉を削ぎ、貪り食う極限状態の描写。そのあまりの凄惨さのせいでしょうか。途中退席する人や、体調を崩して倒れてしまう人が現れるほどでした。今後の上演に当たっては、そうした描写が苦手な人のケアや事前の注意は必要かもしれません。
セットも小道具も最低限に抑えられたシンプルな舞台でたった一人、2時間強の間、一瞬も緊張感を落とす事無く訴え続ける気迫には圧倒されるばかりでした。
多田直人の演劇人生のターニングポイントになるだろうというこの舞台。観客もまた近い将来、本作品を観たことを誇りを持って思い出すことでしょう。