満足度★★★★
言葉とコミュニケーション
聴覚障害者が中心となる話ですが、健常者/障害者という軸だけではない視点から描かれた、言葉やコミュニーケションやコミュニティーについて考えさせられる内容で、ポップなデザインのチラシとはイメージの異なる、シリアスで重い作品でした。
生まれつき耳が不自由でありながら聾者達のコミュニティーに関わらない様に育てられた男が、聴覚を失いつつある女と恋に落ちることによって新たな世界を知り、今まで抑えていた思いを露にするものの、それがポジティブな面だけでなくネガティブな面も強めてしまう物語で、障害者を扱った作品にありがちな、困難を克服するという展開ではなかったのが新鮮でした。
序盤は翻訳劇ならではの入り込み難さを少々感じたものの、後半は迫真のやりとりが続き、引き込まれました。全体的にギスギスした雰囲気の中で、中嶋朋子さんの最初の登場シーンが幻想的でとても美しかったです。
ジャック・ラカンの学説やオペラといった高尚っぽい話題と度々口にする卑猥な単語のギャップがいかにもイギリスの作品らしく感じられました。
モノトーンでまとめたビジュアル表現がスタイリッシュで格好良かったです。ステージに対して少し角度を振った細い金属製のフレームで囲われた空間が関係の脆さを象徴しているようで印象に残りました。衣装の色に意味を持たせているのも良かったです。
音としての言葉が重要なモチーフとなっている為、物音や音楽の扱いも良く考えられていて効果的でした。