永い遠足 公演情報 サンプル「永い遠足」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    喜劇作家の潜在能力
     現に喜劇を書いているかどうかはともかく、喜劇を書く潜在能力を持っていそうな演劇人の作品を好んで観ていることに最近気づいたのだが、松井周の喜劇作家性が強く出た一作で、考えさせられながらも笑った場面が多々。
     一応、『オイディプス王』が劇の主要な下敷きになっています。
     母子相姦を暗喩的に示したシーンの迫力は断然!

    ネタバレBOX

    ●ネタバレ

     その『オイディプス王』にしても、安っぽく滑稽に変奏されているのが松井周らしくて面白い。
     それだけに、原話よりもショッキングに脚色された重い結末には胸を抉られた。
     その結末はその後、ある演出によって相対化されるが、あの演出はまぁ余興的なものと見なして構うまい。
     もちろん、同作を下敷きにした物語にはサンプルらしくシェアハウス、先端医療、ネット社会など今日的なモチーフが多々ちりばめられ、松井流現代戯画の趣も。
     ただ、時事的な多くの劇が陥りがちなように、そうしたものをただネタとして消費するのでなく、それらを扱う作・演出家の手つきに“これらは他人事ではない”という切実味が感じられるのが何よりいい。そして、上に挙げたモチーフ群は大なり小なり滑稽味を強調された形で劇中に現れ、時に笑いを誘いもするが(今作はこれまで観た松井作品の中で一番笑いを取っていた)、観る者は笑いのめした当のものが己にも含まれていることに、あるいは己と密に関わるものであることに笑顔が消えた頃に気づかされ、ハッとさせられる。笑い一つとってもこのように一筋縄ではいかないところがサンプルらしさだ。
     現代的なモチーフの一つとしてシェアハウスを挙げたのは、ヒト、ネズミほか4つの生物の交合種であるネズミ人間ピーターがある場所に仲間たちと新天地を作ろうとするのが、ピーターと同じくはっきりした帰属先を持たない(なにしろピーターは4種の生物のハイブリッド!)若者たちがシェアハウスに新手のコミュニティを打ち立てようとする姿にダブって見えたから。たぶん松井周の頭の中でもピーターはシェアハウス住人と二重写しになっていたのではないか?
    『永い遠足』というタイトルは初めピンとこなかったが、人生をあてどなくさまよう人々を描いたこの劇にふさわしい表題だと今になって思う。
     他、思ったこと、感じたことを以下につらつらと。

    ●キャスト8人が一堂に会するのが終盤の一場面だけで、それまではずっと会場の体育館、茫漠としてガランとした体育館のあちこちに1~数人ずつが点在して演技をするのが、人間、ことに現代人の哀しきモナド性を暗示しているようで身につまされた。

    ●館内を徘徊して移動舞台の役割も果たす街宣車(?)のスピーカーから開演直後に流れる曲がSMAP『世界に一つだけの花』なのはなぜなのか?

    ●稲継美保さん演じる“電気の妖精”ともいうべきキャラクターがすこぶる魅惑的! 配役も、ウエストのくびれと腰回りの豊かさが強調されたフランス人形を思わせる妖艶な赤いワンピース姿も、古風なその格好になじまないローラーブレードに乗って電子のようにスイスイと軽やかにあちこちを回遊する様も、話の鍵を握る家出少女の分身にして未熟な少女を姉のように教え導く良き話し相手でもあるという劇中での役回りも、すべてが良かった!!

    ●エンディング曲として戸川純『諦念プシガンガ』がかかって気持ちが上がった。

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    2013/11/22 07:35

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