ここには映画館があった 公演情報 燐光群「ここには映画館があった」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    舞台機構的には、成功作なれど
    しばらく坂手作品には御無沙汰続きでした。

    社会性があって、勉強にはなるけれど、少し理屈っぽくなって来たし、役者さんが高齢化されて、坂手さんの書く膨大な台詞を消化できなくなりつつある感じで…。

    でも、私もかつて、映画に通い倒した時代があるので、懐かしくて、一昨日、劇作家協会割引で予約して、行ってみました。

    伊東豊雄さんの建築物が大の苦手の私は、この劇場ができた時から、演劇愛を全く感じない劇場の作りに不満を覚えていましたが、今回の舞台は、弱点を生かした舞台機構のアイデアが成功していました。

    横長の舞台を見上げる形の観劇は、芝居の内容以前に、人間工学的に不自然な体形を強いられ、苦痛を感じることが多々ありましたが、この舞台は、客席より、舞台が低位にあり、大変見易く、空間に馴染むのにも時間が掛りませんでした。

    ただ、心配したように、社会性を前面に出す坂手風劇作は、今回の作品でも例外でなく、どうしても作者の言いたいことを伝える舞台が第一義となって、後半から、世界観がどんどんいつもの坂手風味になってしまったのは、やや残念でした。

    古き良き映画館へのノスタルジーに主軸を置き、それとなく、沖縄問題などを隠し味ぐらいな感じで提示した方が、この芝居の場合、効果的だったように感じます。

    芝居の中で、「ニューシネマパラダイス」がディレクターズカット版は感動作だったのに、完全版は、蛇足で、すっかり駄作になってしまったというような台詞があり、内心、そうそう坂手さんの書く芝居も、そういうところあるあるなんて思っていたので、観終えて、政治色が強い部分に、同じような感想を抱いてしまった自分に受けてしまいました。

    当パンに記されている、劇中に言及される映画群リスト中、私が観た記憶のある映画は、ちょうど50本でした。

    この作品の舞台になる時代に、きっと私も一番映画を観たのだと思います。
    それに、自分のラジオ番組が始まる時に、ホテルでジュリアーノ・ジェンマさんと会って、私への応援メッセージを頂いたことがあるので、彼の名前が出てきた途端、自分まで、あの頃に気持ちがタイムスリップしたりもしました。

    でも、これらの映画を観たことがない観客には、この舞台、どうだったのかと大変疑問でもあります。それでか、かなりモゾモゾ動いたり、寝ていた観客も多数いました。

    そろそろ、燐光群の芝居作り、再考の時期かもしれません。

    ネタバレBOX

    客席と対峙して、映画館の客席が設えてありました。

    蜷川さんの演出舞台でも、こういう形式のがありましたが、今回は、舞台のセットの方が、客席より、見下ろす形になり、この劇場の舞台機構の不備を逆手に取ってお見事!さかてさんだけあって…。(笑)

    途中から、主人公の一人、サヨコが、少女時代、沖縄でレイプ被害に遭ったのかもしれないというヒントが提示され始め、そのあたりから、舞台は、沖縄問題など、社会性色濃くなって行きます。

    「リップステック」という映画がありました。今で言うデートセクハラ。主人公が、知り合いの男性にレイプされるシーンが、当時の私には衝撃的でした。この映画を観て以来、しばらく男性不審に陥りました。
    この芝居でも、自主上映会をする男子生徒が、この映画に興奮するというようなニュアンスの台詞があり、それがサヨコの昔の傷に泥を塗ります。

    同じ映画館の座席のみで、舞台は、ちょうど「屋根裏」の時同様、時代も場所もあちこちに変化して行きます。その見せ方自体は大変気が利いて面白いとは思うのですが、語られる映画に関して、何も資料がない観客にとっては、かなり難解に映ったのではないでしょうか?

    「リップステック」ひとつ取っても、この映画を観たことのない観客には、サヨコの痛みはたぶん理解不能です。

    最後の方で、飛行機の中の映画鑑賞シーンがありましたが、これは視覚的にも、かなり斬新なインパクトがありました。

    セットの座席は、1970年代の映画館のそれには見えませんでした。当時は、赤い椅子が大半で、座席のスプリングの裏側は、布製だったように覚えています。この舞台の映画館の椅子は、裏がスチール製で、色はオフホワイト。
    これは、後半明らかになる、ビリーがいた、沖縄普天間基地内の映画館の座席を示唆していたのでしょうか?
    アフタートークで、質問できたら伺ってみたかったのですが、ゲストに、坂手さんが一方的に質問するだけの形態で、興味のない観客が、三々五々、先に退場されて行かれました。アフタートークの形式にも、もう少し、観客目線があればと感じました。

    それにしても、この作品で、重要な意味を持つ蛾、フイルムも消滅したけど、最近蛾も見かけなくなりました。
    私の子供の頃には、嫌という程いたのに。これも、地球環境の変化のせいかしら?人も植物も、動物も、日本は、在来種が絶滅の一途を辿り、外来種が席巻する国になりつつあるよなあなんて、余計な不安も心を過った舞台でした。

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    2013/11/17 21:56

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