栄え 公演情報 MCR「栄え」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    これ、好きなやつだ
    櫻井智也さんの書くものって、どこか冷めたところを感じる。
    どんなに熱くなっても、それを冷めて見ている「目」が必ずある。

    それが笑いを生みつつ、何らかの場所に近づいたりも、する。

    ネタバレBOX

    それがこの作品でも現れていたように思う。

    友松栄さんが演じるトモマツは、40歳を超えている。
    彼は突然、高校生の時間に戻ってきた。
    過去に戻ってやり直したいと思ったこともあったようだが、一番戻りたくない時代に戻ってきてしまったようだ。

    普通だったら、それでも20年間彼女なし、高校卒業してからずっと社会とかかわりをあまり持たず、警備員をしている40代の今から脱しようと、なんとかあがくのだろうけど、彼はクラスメイトに言われてもそれをしない。

    これには少し愕然としてしまった。
    いや、やるでしょ、普通。
    なんかするでしょ。未来の自分を変えたいとかなんとか。

    しかし、しない。
    気がついた。
    「ああ、これはMCRの舞台なのだ。櫻井さんが書いているんだ」
    と。

    トモマツくんを取り巻く2人の友だち、というか、友だちでもなかった2人の存在がいい。
    普通の舞台だと、結構いい感じの台詞を熱く語るのだけど、そこは、それ、ここだからそうはならない。

    コバヤシくん(小栗剛さん演じる)のことを一生懸命応援するホリくん(堀靖明さん演じる)だけど、自ら自分の気持ちに突っ込む「オレ、やりたいことないんだよね」「やりたくないし」の台詞に「あぁ」っと気持ちが下げられてしまう。

    トモマツくんの気持ちをかき立てようとするコバヤシくんに、ホリくんが言い放つ「オマエはだからダメなんだ」という台詞にも「あぁ」っとなる。

    トモマツくんの、すべてを諦め切っている、ダウナーな台詞の数々には、ほとんど「あぁ」っとなってしまう。

    それって、高校時代のあるある的な感じもあるのだけど、今でも結構痛い台詞だったりもするわけだ。
    ……ホントに痛く感じる人は、劇場の観客席に来てなかったりはするとは思うけど(笑)。

    台詞の面白さを堪能した。
    突っ込みとか、冷や水のかけ方とか、超一流。
    戯曲もいいけど、役者もうまい。

    どうでもいいことだけど、パイナップルにも笑った。
    こういう「身体を張る」的な笑いは入れたことなかったような気がするけど、リアクションを楽しむのではないところに力点を置いているから、面白くなる。

    友松栄さんが、いろんな人にいろいろ言われ続けながらも、下を向いたまま黙っている時間のあり方が素晴らしい。
    すぐに反応、反論してしまうところを、トモマツという人物の性格、内面をうまくトレースしたからであろう。
    このもどかしさが堪らない。

    台詞の内容、声の大きさだけを見ると、かなり熱い舞台になっているようで、実はそうではない、というところがいいのだ。

    ラストのトモマツくんの「自分こそ、ここ(闇)から連れ出してほしい」という、切実な台詞には、ぐっと来そうになったが、そこが実は彼の一番ダメなところだったということだとわかるのだ。
    それは、ダテさんとの関係で引き起こされたのだと彼は思っている。
    だからこの時代だけは戻りたくなかったのだ。

    トモマツくん、優しい人だけど、この台詞でダメな人決定となってしまう。

    しかし、演劇マジックである。
    どん詰まりに行き着いて、窮鼠猫を噛む的な、絞り出すような内面の吐露に対してには、優しい展開がある(舞台の角に位置させて、トモマツくんの状況をさりげなく説明するうまさ)。

    櫻井さんが素敵な(笑)ラストを用意してくれた。
    ダテさんとの、恥ずかしい(笑)ラストだ。

    彼はこのことがきっかけとなり、一歩を踏み出したようなのだ。
    ラストのやり取りからみると、石巻に引っ越した父親も助けたようだし(……こういうアプローチができるようになってきた、ということか)、原発に対しても何らかの行動を起こして、世間的にも名前が知られるようになったらしい。
    ……結果、結局、ハリウッドで楽しんでいるらしいのだけど。

    40代になって、たぶん彼らはほぼ何も変わっていないようだけど、何もない暗闇にいたトモマツくんの気持ち、気分は、それほど悪くはないのだろう。
    ホリくんは変わらず、コバヤシくんも、ダテそさんも、たぶん、トモマツくんがいた未来とほぼ変わらないでいるのではないかと思う。
    それでも、トモマツくんは「良かった」と言えるのではないだろうか。ハリウッドで満足げに楽しんでいるのではないだろうか。

    この舞台に、「だから今を精一杯生きよ」というメッセージはないだろう。いや、そう受け取ってもいいとは思うけど。だけど、万が一高校生に戻ったりしたら、そのときは本当の気持ちを吐露してもいいかな、ぐらいは思えるのだった。

    友松栄さん、堀靖明さん、小栗剛さんの3人はとても良かった。友松栄さんの不器用な感じ、堀靖明さんのいつもの突っ込みのうまさ、小栗剛さんの、ダメ人間になっていく男の空虚さの片鱗とか。
    本井博之さん演じる父親の、ルーズな感じが見事。ダメっぷりが最高だった。
    おがわじゅんやさんの体育教師も笑わせてくれた。
    櫻井智也さんの、肩の力が抜けているのに狂気を感じる演技は好きなのだが、冒頭の先生のドラッグ暴走で、自分もたっぷりと楽しんだのではないだろうか。「先生、ドラッグといいうドラッグはすべてやりました」「知らないドラッグがあったら教えてください」めちゃくちゃな設定が楽しい。

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    2013/11/10 22:10

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