満足度★★★★
“怖いは面白い”を実感
面白い。なのに4つ星にしたのは、この劇のことを人に話す時、素直に「面白かったぁ~!」と言う自信がないからだ。というのも、バルブは話の呑み込みが悪く、結末の解釈に自信が持てずに終演後、自分の見立てが合っているかをスタッフの方に尋ねに行ったという体たらく。「合っている」とのことでホッとしたが、やはり自力で理解できなかった作品に5つ星はつけづらいものである。
とはいえ、分かりづらさが怖さを生むという側面もあるはずで、分かりやすくしようとバルブ基準に合わせて説明過剰にしていたら怖さが損なわれて本作は台無しになっていただろう。
やはり、当方のような物分かりの悪い人間は度外視して製作にあたるのが恐怖モノの作り手としての正しい態度なのに違いない。
ところで、ここまでに「怖」という字が繰り返し出てきたのは本作がホラー演劇として一級だったからに他ならず、ホラー慣れしてない当方は本作を観て“怖いは面白い”ということに気づかされ、今後はホラー演劇にも手を広げようと思った次第。
それくらい怖かったし面白かったのだが、それは演出や人物造形、さらには人物造形を支える演技に負うところが大だったと思う。
というのも、本作のストーリーだけを怪談話として人に話してもあまり怖がってもらえなそうな気がするのである。こう言ってはなんだが、筋だけに着目すると同巧の話を過去にも何度か聞いたような記憶があるのだ。
なのに本作が“一級のホラー演劇”と形容して差し支えない怖さを持っているのは、やはり演出、とりわけその大きな仕事の一つである人物造形の賜物だと言えよう。
冷淡な人間性がひしひしと伝わってくる長身の男も本作の不気味さを高める上で大きな役割を果たしているし、社交性に乏しそうで何を考えているのか分からないアフロヘアの独身男も同様だ。
しかし最も恐怖感を高めているのは、なんと言っても、本作の鍵を握る人物の家族だろう。
この者が時を追うごとに薄気味悪く見えてくるよう前川氏が演出したことにより、本作は“じわじわ、ひたひた怖くなる”というホラーの醍醐味をかち得たように思う。