【千秋楽当日券ございます】値札のない戦争 公演情報 劇団印象-indian elephant-「【千秋楽当日券ございます】値札のない戦争」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    時代を見ようとする目
    4年前に国連決議された一国一核制度のお陰で、世界は完全に平和になった。戦争カメラマン、タリタリは、世界的に知られた戦場カメラマンだが、世界中に平和が蔓延してしまって仕事が無い。それで、旧知のヌードカメラマン、橋の事務所を頼った。二人は、友人だが、国籍は異なる。橋の国は、かつて、タリタリの国を植民地化していたのだ。
     何れにせよ、目先の問題は、仕事が無いことである。橋も優秀なカメラマンなのだが、モデルに手を出すのが早く、業界では要注意人物なのである。
     こんなわけで2人とも崖っぷちに立たされていた。尚、事務所には、もう1人、音門という仲間が居る。マネジャー役とでも言っておこう。橋の大学時代の写真部仲間なのだが、音門は、被写体に寄ることができず、プロはあきらめたのだった。
     何れにせよ、食わなければならない。企画を出し合うが。ここには、もう1人、押し掛けてくるシェルターの販売人、ラーニャソンがいる。彼女は、タリタリと同国人だが、矢張り、平和のせいでシェルターが売れない。
     彼らは日々、新たな企画、売れる企画を考えていたのだが、終に、その企画を発案、チャレンジしてみた。結果は爆発的なヒットであった。平和に飽き飽きしていた人々に議事戦争写真を呈示したのである。だが、人々は、疑似的なものに、心象風景を犯されていった。(追記2013.10.28)

    ネタバレBOX

    先に、疑似的なものに云々と書いたが、物語では、このヒットのさなか、隣国との間で領有が問題化していた島を巡って問題が起こる。音門は、これを好機と捉える。最初は、漁船の乗組員が島に上陸した。その後、音門達の国の旗を持って上陸したグループが、島の最も高い場所に旗を立てた。だが、タリタリの国の軍に排除され、旗が焼かれたのである。タリタリは報道カメラマンとしての本能から、問題が起きると直ぐ、島に飛んで取材をしていた。彼女は、旗が焼かれている現場写真を写していた。彼女は、発表すべきか否か迷うが、音門に説得され1度はメディアに発表することを認める。直後、前言を翻すが、時すでに遅し。時流に乗ったこの写真も、人々の戦争気分を加速させた。
     今作では、このように領土問題が語られる。現在、3つの領土問題を抱える日本としては、耳目を集める話題であり、多くの人々が踊らされる元凶でもある。興味のある方は、「永続敗戦論」白井 聡著などお読みになると宜しい。白井が指摘する通り、領土問題を論ずるならば、双方の当事者が、交わした国際間の協定なり何なりの原典に当たる必要があるのは、当然のことだ。また、国境画定に関しては、露骨な力関係が支配するのは、常識である。その上、国際関係の様々な利害、歴史的事情等々が絡み合って成立する諸条約・協定については、一見矛盾するような事態が度々生ずる。だが、互いに再度、戦争をして新たな領土画定競争をするのは忍びない。こんな事情があって棚上げにされて来たわけであるが、背景を知らず、知ろうともせず、またキチンとサジェッションしてくれるような有能なブレーンもいない場合、虎の尾を踏んでしまうのだ。そして、己は、そのことに気付きもしない。これは単なる馬鹿である。丁度、現政権トップがそうであるように。
     更に悪いことが、今作では描かれているのである。それはメディア操作によって踊らされる人々についてである。
     ひと頃盛んに言われた、勝ち組・負け組。この根底にあった価値観は、サッチャーがかつて述べた「社会というものは無い。私のお金、私の成功があるだけだ」という悲愴な発想と同根だろう。
     この論理に沿って行動しているのが、音門とラーニャソンらであるが、ラーニャソンによれば彼女のカメラとは即ち金、そのカメラは、「両カメラマンよりも世界をより写すかも」と宣う。因みに彼女の働くシェルター製作会社は、ミサイルも開発している。新しいミサイルはより強力であるから、シェルターを買い変えさせる需要に繋がり、シェルターを買い変えた頃には、また新たなミサイルを開発する、というである。かくして企業は安泰というわけだ。人々はたった一つの命を守る為には、永遠に買い物を更新し続けなければならないのである。

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    2013/10/26 11:47

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