満足度★★★★
「わかんない」と「ひさしぶり」
面白かった。何より肩肘張らず気楽に観ることができたし、僕にとっては非常に興味深い作品だった。前作の『霊感少女ヒドミ』もだけれど、それ以前の作品でも同様に描かれ続けている「東京」という都市の肖像が、雑然として生々しく目の前に開けていく。それが本作では「これでもか」というほど一層にあざやかだった。(彼(女)らの「東京」を舞台にパッケージングするセンスはとても鋭い)
劇中に繰り返される「わかんない」と「ひさしぶり」に、僕は雑踏での邂逅を見た気がする。これは日常生活にある他者とのちょっとした擦れ違いのなかにも生じる触れ合いの質感とでも言えるだろうか、例えば肩を寄せてひしめき合う存在の喧噪への耐えられなさや、ふと他人同士の手と手がぶつかり合ってぱちんと乾いた音を鳴らすときに感じるスリル——都市が内包する刹那の緊張感——が、ダンス中の不安定な身体性に集約されていく。瞬間瞬間が、ふつふつと忘我の彼方へと消え去ってはまた新たに次々と現れてくる。浮遊ではなく"滑走"という感じ。キェルケゴールが「ほんとうの反復は前方に向って追憶される」と言ったように、延々と続くかのような「日常」の経験は、決死の跳躍、そして束の間の浮遊感の後に現れてくる欲動の滑空であり、重力との均衡を保ち続けるような滑走の疾走感なのだ。
終演後の舞台に残存する気分は確かに切ない。が、これはノスタルジーなどではなく圧倒的なリアリティなんだと思う。