鬼灯町鬼灯通り三丁目 公演情報 劇団桟敷童子「鬼灯町鬼灯通り三丁目」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    役者の層の厚さ 「ホタル組」
    4人によるシンプルな舞台なので、役者の演技を思う存分堪能できた。

    「ホタル組」「スイカ組」合わせて8名の役者さんが演じるが、全員がそれぞれに魅力的。同じ芝居でも、役者が違うと舞台がまったく違う印象になる。

    別の芝居を観るように楽しめた。
    また、観比べることで、役者と演技・演出の関係についてとても勉強になった。

    とにかく、桟敷童子の役者の層の厚さに圧倒された。

    ネタバレBOX

    「昭和二十一年の夏
     男が戦地からやっとの思いで帰り着いた我が家には
     初恋の人を待ち続ける妻と、見知らぬ二人の女がいた・・・」(当日、パンフレットより)という話。

    帰ってきた男:松尾大吉が、偉そうに、女に「戦争もしてないお前らにはわからないんだ」という主旨のことを言う場面がある。
    そこで、番場鶴江は、「男だけやない、女・子供も戦争してたんや。そもそも男が戦争しよ言わなんだら、戦争など起きへんかったんや」(方言が正しくなくて、すみません)というようなことを言う。
    このシーンはとても印象的で、この芝居トーンはここに象徴されている。戦争という男の論理・男の暴力に対して、戦後になっての女(弱い者)の立場から反撃がなされている。


    「ホタル組」について

    <松尾大吉役:井上昌徳さん>
    演技というより、井上さんの人間性からくるものなのだろうが、
    「まっすぐ」な感じがとてもよかった。
    戦中は戦争に振り回され、生還してもまた戦後の日本に振り回される一人の実直な男の姿が、本来は悲劇的なはずなのに、とても喜劇的に見える点が素晴らしかった。深読みすれば、戦中は戦争という男の論理に振り回され、帰還後は生活や感情という女の論理に振り回されるという解釈も成り立つ。いずれにせよ、時代に振り回され続ける人間の姿をこれほどまでにうまく演じる、いい意味での軽さがとてもよかった。

    <松尾弥生役:大手忍さん>
    松尾大吉役:井上昌徳さんの軽さに対して、大手さんの抱えているものは重い。彼女が抱えているものは、男が勝手にはじめた戦争や男が作った家制度(つまり天皇制)に振り回された女の苦悩でもある。その鬱屈は、敗戦により、家が(天皇制が)崩壊すると共にに、晴らされたはずだったのだが、家長である夫が帰還してしまったことで、行き場のないものとなる。それに、愛し待ち焦がれている初恋の人は戻らない。そして、鬱屈は怒りへ、そして狂気へと変わる。その様をとても熱量のある演技で魅せてくれた。

    <番場鶴江役:鈴木めぐみさん>
    強弱、緩急が絶妙だった。自身の演技の緩急というだけではなく、他の役者さんとの掛け合いで、出るところと出ないところをわける間合いも素晴らしかった。井上さんや大手さんが強い演技なので、一見鈴木さんの印象は薄めなのだが、実は鈴木さんが、どっしりと構えて全体のバランスをとっているという印象。彼女が実は場を作っているとさえ言える。自分を表現するだけが役者じゃないという点には、改めて驚いた。

    <鍋島小梅役:川原洋子さん>
    一番地味なのだが、実は、松尾弥生役:大手忍さん以上に、闇が深いのは、こちら。その背負っているものの深さ・奥行を一番感じさせられた。実は演技で一番印象的だったのは川原さんの演技。お金のために身を売らなくては生きていけない女の姿、それは戦前も、戦中も、戦後も変わらない。進駐軍に街娼が追われている時に見せた、鍋島小梅の怒りの中には、「自分の意志では抜け出せない場所に追い込まれながら、それでもなんとか生きようとしている者をも殺そうというのか」という思いがあったのだろう。

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    2013/08/06 15:21

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