きみがいた時間 ぼくのいく時間 公演情報 演劇集団キャラメルボックス「きみがいた時間 ぼくのいく時間」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度

    テレビで観ました
    いつもブロガー招待枠によってただで観ているのだけれど、上川隆也さんが出演するということでチケットが取りづらく、観ることができなかった本作。たまたま夜中にテレビでやっていたので観てみた。

    最初に書いておくけれど、芝居というのはあくまでも生で観るべきもの。テレビで観ることを前提として作られていないので、その内容についてテレビを観てあーだこーだ言うのは正当ではない。しかし、公演が終了してすぐにこうやってNHKで放映するのは、大河ドラマに出演していた上川さんの影響がなかったとは言えず、また制作がNHKだったことから、それなりにお金もかかっていることが予想され、多分に営業的側面があり、「テレビで放映することによって批判されることを念頭に入れたコンテンツである」と判断した。

    以下、ネタバレに書きます。

    ネタバレBOX

    さて、本作はここ数年キャラメルボックスがはまっている梶尾真治さんの短編小説シリーズ「クロノス・ジョウンターの伝説」が原作。キャラメルボックスはこのシリーズ作品を「日本のSF史に残る傑作」などと評しているのだけれど、とんでもない。突っ込みどころ満載で考証が甘い、かなりトンデモ系の作品である。そうした原作を使っているので、本作の内容もかなりいけてない。「タイムマシンの製作」という部分を非常に軽く扱っているのは良いとして、何よりその性能や与える影響についての考え方が非常にご都合主義。例えば、時間旅行については物語にとって都合の良い影響(カメオが消えてなくなるとか)だけがクローズアップされ、都合の悪い影響についてはスルーする。それでいて「バタフライ効果だ」などとそれっぽいキーワードを盛り込んだりするものだから、浅はかさが助長されてしまう。つじつまが合わないところは山ほどあって、例えば、伏線として盛り込まれていたいくつかの事象が発生している以上、前半で描かれていた部分は「時間旅行」の成功が前提になっているのだから、後半で「時間旅行の影響で世界が変わってしまう」ということ自体がおかしい。こうした詰めの甘さが観ているそばから「どっちらけ感を醸成してしまう。科学的にも突っ込みどころ満載で、人物描写的にも浅く、一口に言ってしまうと「つまらない」内容である。何かそんなものを観たよなぁ、と思い返すと、「日本沈没」であり、「クロサギ」である。

    さて、こうした駄目な原作を、原作モノが苦手な成井豊さんが脚本化するのだから、物語として面白いものになるはずがない。とにかく説明的で(わざわざ説明をする狂言回し役がいるくらいに説明的)、見え見え過ぎてとても伏線とは言えないような伏線を張り、登場人物たちはいつもと変わらない役柄をこなしている。どうしてこの劇団はこうやって同じ役者に同じような役をやらせるのかなぁと不思議で仕方がないのだけれど、西川浩幸さん、坂口理恵さん、岡内美喜子さんといったベテラン、中堅どころはデ・ジャヴュかと思うような、いつかどこかで観たような芝居を展開する。

    さらに、これはテレビで観たから余計に強く感じるのだろうが、とにかく怒鳴る演技が多い。これも成井さんの演出の特徴なのだが、緩急がなくて(正確には緩急はあるのだけれど、それがアナログではなくデジタル。「普通」と「強」しかなく、その中間が全くない)とにかく押し付けるように台詞をしゃべる。テレビでは生の臨場感とかがなく、第三者的な視点で観てしまうので、その「空回り感」が一層強くなる。あぁ、また怒鳴っているよ、というような。

    そうした中、光っていたのはやはり上川さん。30代前半から70代までの男性をほとんど小道具を使わずに(杖は使ったけれど)、喋りで演じ分けていたのはなかなかに大したもの。彼にだけは緩急がきちんと存在していて、他の役者とは全く違う次元での表現力があることがわかる。もちろん、西川さんや坂口さんにもそうした表現力はあるのかもしれないが、それが演出の悪さによって顕在化しないのか、そもそも能力がないのか、そのあたりはわからない。とにかく、上川さんの演技はさすがと思わせるところがあった。その他で良かったのは完全な脇役、チョイ役だけれど、青山千洋さんだろうか。最近彼女は体を張った演技が多いのだけれど、本作でもそういった役どころ。それをきっちりとこなしていた。上にも書いたように成井さんの演出は同じ役者に同じような役ということを続けるのが特徴なのだけれど、彼女にはもうちょっと違う役を演じさせたらどうなんだろう。

    客演でヒロインを演じた西山繭子さんについてはその実力のほどは不明。というのは、観たのがテレビだから。ただ、テレビで観ている範囲では標準的なところだったと思う。少なくとも、舞台の雰囲気を壊してしまうということはなかった。しかし、こう言っては失礼かもしれないけれど、西山繭子さんの登用によって営業的に大きなプラスがあったとは思えず、「それならなぜ劇団内でヒロインを配役できないの?」と思ってしまう。

    シナリオのつめが甘く、展開がステレオタイプ。怒鳴るばかりで迫力もない。これといった深い人物描写もないままに恋人のために人生を投げ打って過去にすっ飛んで行ってしまう(大体いつも過去に行く人は舞台上の登場人物とだけしか人間関係がない、かなり特殊な人たちばかり)ので、感情移入も出来ない。おかげで科学的考証の甘さとか、演出のマズいところばかりに目が行ってしまう。かなりとほほな感じで、タダなら良いけどお金を払って観るのはちょっとなぁ、というのが正直なところ。

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    2008/05/17 10:05

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