トーキョー拾遺【全ステージ終了しました、ありがとうございます】 公演情報 ゲンパビ「トーキョー拾遺【全ステージ終了しました、ありがとうございます】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    現代的な感性
    個人の日常という「小さな物語」と、社会などの「大きな物語」との関係がテーマとなっている。

    作・演出・演技、どれもとても現代的な作品だと思った。
    役者さんの演技がとても良かった。

    (満足度は、観劇の印象では★3つですが、この方向を突き詰めたら、凄い作品ができるのではないかとも思うので、期待を込めて★4つにします。)

    ネタバレBOX

    個人の日常という「小さな物語」と、社会などの「大きな物語」との関係がテーマとなっている。
    岡田利規/チェルフィッチュの「三月の5日間」と近い問題意識。
    登場人物たちの個人的な生活の断片が切り取られているが、
    その背景では、選挙演説が聞こえてきたり、都議選のことが何でもない会話に一瞬だけ出てきたりと、社会的な問題が通底音のように意識されている。
    そして、そのそれぞれの「小さな物語」も、別々のものに見えても、実は、様々に繋がり合っているということが示されている。

    三澤さきさん演じる〈川口よど美〉は、バイト先のライブハウスで終電に乗り遅れ、渋谷から自宅のある雑司ヶ谷まで歩いて帰ることになる。ここで、普段電車で移動している時には、別々の都市としてしか見えていなかった町が、実は繋がって存在しているという当たり前の事実に気付く。そしてその部分の総体として東京という大都市が形作られているということにも気付く。

    これは、登場人物たちの日常は、それぞれに独立したもののように見えてもそれぞれに繋がり合い、関係し合っていて、その総体として社会は動いているということを暗に意味しているのだろう。

    そこで描かれる個々の物語は、微妙な人間関係のズレのようなものを扱っていて、その場面も、プライベートな空間でも、パブリックな空間でもなく、セミパブリックな空間が多い。
    このセミパブリックな空間での人間関係というのが、とても現代的な人間関係を象徴している。心を開ききった上での交流がある訳ではなく、どこかで常に遠慮したような、探り合っているような関係でありながら、その奥には極めて私的な欲望が渦巻いている。

    そのような微妙な感じを、役者さん達がとてもよく演じていたと思う。
    特に新さなえ役の椎谷万里江さんは、演じている感じがしないような自然さがとても印象に残った。他の役者さんたちは、逆に、演じている良さがとてもよかった。

    観た直後は、あまりピンときていなかったが、振り返って考えれば考える程、面白い作品だったと思う。

    だが、やはり観た直後にピンとこなかったのは、このようなそもそもが微妙な人間関係を描くというのは、感情を吐露するというような強い演技を必要としないため、舞台としての強度を出すにはとても難しいものがあるのだと思う。それでも、この方法を突き詰めて作品化できたら、今までにない凄い作品ができるのではないかという期待もあるので、ぜひその方向で進んでいただきたい。そういう作品を観たい。

    余談だが、ドキュメンタリー映画監督のフレデリック・ワイズマンは、セミパブリックな空間を捉え、見つめることで、目には見えない社会的制度や構造をあぶり出す。演劇におけるフレデリック・ワイズマン的手法というようなものが確立できたら、そうとう面白いと思う。
    (私が不勉強なだけで、既にそういう演出家もいるのかもしれないが。)

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    2013/07/12 09:32

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