つく、きえる 公演情報 新国立劇場「つく、きえる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    「あの日」以来、気が付いたもの
    作者、シンメルプフェニヒの作品は、倉持裕氏が演出した
    『昔の女』を観ていますが、あの時のホラーっぽい内容とは
    一転、本作『つく、きえる』は寓意に満ちた、結構難解な
    作品になっています。

    一応、「3.11」をふまえた作品だということになっていますが、
    注意深く観ていくと、そこを超えたメッセージが見えてくる。
    そのメッセージをどう思うかで、この作品の印象は大きく
    変わってくるでしょう。

    ネタバレBOX

    あらすじは、ある月曜日、三組のカップルが不倫の逢瀬を
    重ねる、港沿いのホテル。

    滑稽なことに、三人のカップルは同じホテルを使っているのに
    来る時間帯が異なってたり、偶然が一致していたりと、お互いの
    存在に気が付かない。

    そして、ホテルの若いオーナーは、少し離れた先の灯台守の
    女の子、「ミツバチ」とお互いの仕事があり、会うことが出来ない
    ために、もっぱらメールのやり取りだけでを繰り返している。
    「会いたい」「いつ会えるのか」 言葉は繰り返されるけど、一向に
    会えそうにない、そんな時間がずっと繰り返されるような、日常。

    そこに、「3.11」を思わせるような、ホテルを海の底に一瞬にして
    変えるような、そんな大きな津波が襲いかかってくる。津波が
    本筋ではないので、最初、何があったのかよく分からない位に
    幻想的な台詞と演出で描かれていて、スクリーンに波の映像が
    使われていなかったら、津波とも気が付かなかったと思う。

    一瞬の津波に飲まれ、命を失い、しかしそのことに気が付かず
    家に帰る人々。大きな波によって余計なものが洗い流された
    かのように、三組のカップルの間にも、元の相手に対する
    別の感情、初めて相手に抱く関心、理解、温かい感情が
    まるで火を点したかのように浮かび上がってきます。

    それは暗く、鈍色をした、生命が全て死に絶えたような
    舞台の中でほんのりと存在感を放っています。でも、
    これって「津波」があったからのことで、もしその存在が
    なかったら…? そう考えると皮肉な気がします。

    ホテルの若いオーナー、「クジラ」のもとを、「ミツバチ」が
    訪れるきっかけとなったのも、「津波」あったのことだし、
    まるで当たり前のように繰り返されてきた日常は、脆い
    ものであるが、私たちを取り巻く日常という枷が外れたとき、
    真に自分が欲していたものが見える、だから、全くの悲劇と
    いうものは、厳密には存在しない。そういわれているような
    気がしましたね。

    台詞は難解で、意図的に似た場面が繰り返されるため、
    全貌はよく理解できなかったのですが、後半、一気に
    シンプルになった展開を見て、そう感じました。

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    2013/07/05 07:49

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