満足度★★★
幻の世界をさまよう人形
室町時代の能の謡曲を昭和の三島由紀夫が翻案した『近代能楽集』から2作品を、江戸時代から続くあやつり人形劇団の結城座が現代の松本修さん(MODE)の演出で上演するという、様々な時代の折り重なりが興味深い公演で、人形ならではの表現が美しかったです。
『邯鄲(かんたん)』
不思議な枕を用いて寝て、夢の中で自分の生涯を知ってしまう男の物語で、主人公を夢の世界での人形、現実世界は人形を用いずに人形遣い自身が演じる形式でした。
主人公とその乳母以外の登場人物は骸骨姿で、夢=死者の世界が不気味かつ滑稽に描かれていました。赤いドレスを着た女の滑らかな動きが官脳的で美しかったです。
『葵上(あおいのうえ)』
かつて付き合っていた女との思い出に浸り、妻を捨て幻に溺れる男の物語で、病院が舞台なので、人形遣いは白衣姿で操演していました。
回想シーンでは(人間に対して)実物大に近いサイズのヨットが舞台上に現れたり、妻がベッドから起き上がる最後の場面でそれまでモノトーンだった世界に鮮やかな赤色が現れたりとヴィジュアル表現が印象的で、性と死を巡る濃密なストーリーと合わせて、独特の情感が漂っていました。
斎藤ネコさんによる情熱的な音楽は、生身の人間が演じる時に流れると大袈裟に感じてしまいそうでしたが、人形の静かな佇まいにはマッチしていました。