スタニスラフスキー理論の中核にあるものが、transparence and effectである理由もそこにあるだろう。即ち俳優が、その全存在によって役柄を舞台上の身体に滲みださせる時、自ずから其処に“普通”の表現が成立するのである。このような“普通”が最高度の表現であるのは、言うをまたない。 本作で、今日、かおり役を演じた永井 友加里は、ソラリネの代表を務めるが、その職責に充分見合う才能を見せた。殊に印象に残ったのが、3年間付き合った彼に別れを告げられるシーンで、自らのスカートの裾を掴み、何度も、掴んだ指で揉みしだくような切ない表現と、ラスト、閉店後のアルバイト先で、女性店長と二人きりの時、当たり前の会話の後に感極まって泣くシーンである。泣く姿に凝縮された、胸の詰るような、身悶えを、観客はここに感じる。