で・あること 公演情報 明治大学実験劇場「で・あること」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    痛烈なブラックユーモア
    メディアが作りだし、流布させているステレオタイプな言説を、
    ブラックユーモアで徹底してひっくり返していく。
    そのケンカの売り方がとても良かった。

    ネタバレBOX

    特に、当て書きをしたのだろう、身体障害を持った役者さんに身体障害者を演じさせるというのは痛烈だった。
    マスメディア(テレビ、映画、演劇も)は、障害者を「可哀そうな人」として過剰に演出し、感動なるものを視聴者に与えようとする。その裏で、制作者は視聴率などのことしか考えていない。
    また、障害者問題に限らず、「震災」「被災地」「福島」などのテーマも、同様に数字をとれる・注目される<ネタ>として利用されている。
    そのような在り方を劇中で痛烈に揶揄している。

    それだけではなく、一般的に言われている言説への相対化も良かった。
    例えば、秋葉原事件をはじめとした近年よく言及される「理由なき殺人」の問題。この作品の中心をなす物語の女子大生監禁事件は、理由もなく始まった殺人計画なのだが、理由がないと「理由なき殺人」にカテゴライズされてしまうので、無理やりにでも理由を作りだそうと苦心したりする。

    また、権威などを嘲笑する感じも良かった。

    このフィクションの物語自体をメタな視点から相対化する視点も随所にあり、それも面白かった。特に、実は今までの回想シーンは嘘だったとする部分など。

    総じて、既存の価値などにケンカを売った姿勢が素晴らしかった。


    ただ、もの足りなさも残った。
    それは、そのブラックユーモアや風刺などが、単なる言説の相対化に留まっていた点だ。
    あらゆる言説や価値観を疑い、相対化するのは良いと思うが、
    相対化している主体の持つ(つまり脚本・演出の金子鈴幸さんの持つ)価値観が、何も提示されていないということ。

    勿論、そんなものは必要ないという考え方も解らなくはない。(私もポストモダン以後の世代なので)
    だが、すべての価値は相対化されてしまうという立場に立つと、
    この作品自体の意義もまた相対化され、その存在根拠も失われてしまう。
    その問題さえも取り込んで、自己相対化している作品だったら、アッパレだったのだが、そこまで突き詰めてはいなかった。
    それに、自己の演劇行為さえも相対化する作品を作っても、どれほど有意義なものになるかはきわどいので、その点においては、普通に、作者のアンチテーゼではない、テーゼを見せてほしかった。

    と、最後、厳しくも書いてしまいましたが、
    次回作も、楽しみにしています!


    <追記>
    加弥乃さんの演技がとても良かった。
    彼女の演技力で演劇としての強度を保っていたように思う。

    また、渡部栄太さんの演技は、あれは本当にヘタなのか、ヘタを演じているのかわからないが、いずれにせよ、とても印象に残った。

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    2013/04/28 02:18

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