満足度★★★★★
最後の春休み
風にはなんとなく花の香りがするのに、薄手のコートじゃ寒いこの季節は、卒業式の終わった3年生の気分をふと思い出して切ない。春が来ても、もうあの校舎には行かないんだな、あの駅で降りないんだな、あの人にももう会えないんだな・・・。切なさを全部足したら、恋をひとつなくしたくらいに、涙がでる。
主役の板橋と工藤のセリフの量と、その場の動き。よくもまぁ脳と身体に入れたものだ。そして、心にも。プロデュース時代から培った、主宰・春謡との絆がしっかりと見える。脇を固める関・高野・村尾もまた、想い出の中に住む、懐かしい教師そのものである。
佐瀬と森島はキャラが安定してきた。すっごい美人とか、すっごい色気とか、見かけの完成度が高くない分だけ、役の人格に寄り添って観ることができる。
今回の脚本の凄さは、観劇したイキウメ主宰・前川知大氏の「面白かった。春謡作品における最高傑作」という感想でもう充分だろう(初日から、こんなに安定している舞台も珍しい)。
そして、これを最後に引退する飯島の千葉。ほんとにいい。こんなにいい役者だったのか、と、最後にして思っていることが申し訳ない。
春になったら飯島はいない。時間の許す限り、何度でも観ようと思う。私には甘く切ない、最後の春休みだ。