国語の時間 公演情報 風琴工房「国語の時間」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    創り手の志を感じる
    大日本帝国が、かつて朝鮮の人々に日本語を「国語」として強いたという事実、
    それがどういうことなのかを、想像力の欠如した私たちにがつんと見せてくれる。
    美しい舞台美術が忘れられない。
    市井の人々の人生に寄り添うような、作家の共感と切なさが溢れる舞台だった。

    ネタバレBOX

    劇場に入ると舞台に浮かぶ円形のスペースに目を奪われる。
    切り取られたように丸い教室はもちろん木の床、
    小学生用の小さな机と椅子が20個ほど整然と並べられている。
    舞台奥、正面には天井まで届くガラス窓があり
    教師が舞台手前の教壇でエア黒板に板書すると、
    その文字がガラス窓に映し出される。

    京城(現ソウル)の小学校で、
    日本語を国語として教えなければならなくなった朝鮮人教師たち、
    朝鮮語を禁止され日本語で話すことを強要される人々、
    日本語を巧みに操る者が生き残れる世の中になってしまった混乱と反発が描かれる。
    創氏改名により全員日本名を持っているが、登場人物はみな朝鮮人である。

    総督府の役人甲斐壮一郎(加藤虎ノ介)は朝鮮人の同化政策に非常に熱心だが
    実は彼はパクガンヒという朝鮮人だった。
    ハングルが読めないコンプレックス、子どもの頃の母親との確執と別離を抱えて
    出自をひた隠しにしている。
    死んだと思っていた母(峯岸のり子)がこの小学校で国語を学んでおり、
    それは探している息子に手紙を書くためだと知る。

    柳京子(中村ゆり)はこの小学校の朝鮮人教師。
    同化政策に戸惑いながらも厳しい現実に直面するにつれて変わって行く。
    母親の治療費を得るために校長の妾となり、過激なまでに国語教育に熱心になる。

    丸尾仁(松田洋治)は“おわいや”をしながら必死に息子を育てている。
    日本語を学ぶがあまり上達しない。
    息子の哲(大政凛)の方は非常に優秀な小学生だが、
    禁止されているハングルの落書きをして回るという密かな反日行動をしている。

    加藤虎ノ介さん、抱えた秘密の大きさに比例するように
    同化政策を推し進める役人が見事だった。
    出自が明らかになってからは、それまでの態度が
    恐怖を振り払うため、自己を肯定したいがためだったと解る。

    中村ゆりさん、はかなげな美しい容姿が強靭な精神力を合わせ持つギャップを見せた。
    日本人になろうとして、その日本が負けたことで
    すべてをあきらめたようなラストシーンが辛いほど強烈。

    松田洋治さん、オーバーアクト気味ながら実にリアルな日本語。
    私は日本語学校で外国人(韓国の方も含む)に日本語を教えていたが
    第二外国語が拙ければ拙いほど母国語のアクセントが強く出るものだ。
    熱くなると追いつかない表現がもどかしくて、ボディーランゲージが大きくなる。
    松田さん始め、皆朝鮮語のアクセントそのままの日本語がとても上手くて関心した。
    作者の小里清さんも一時演劇から離れて日本語教師を志した。
    そこで学ぶうち、ある教師の言葉が印象に残ったという。
    「語学教育は他者を同化する危険性をはらんでいるから慎重にならなければならない」
    という意味の言葉で、これが作品のひとつのきっかけともなったそうである。

    ラスト、日本の敗戦が決まった後民衆が小学校を襲う場面の
    怖ろしくも美しい演出が秀逸。
    死を覚悟した柳京子が身じろぎもせずに座っている。
    投げつけられた石でガラス窓の割れる音が、まだ聴こえるような気がする。
    30代でこの作品を書いた作家に心から敬意を表したい。



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    2013/02/27 03:56

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