満足度★★★
信念の衝突
名指揮者フルトヴェングラーが、ナチに協力したとしてアメリカの少佐に攻めたてられる緊迫したやりとりを通じて、政治と芸術の関係について考えさせられる作品でした。
ナチに対する憎悪や芸術の無力さに憤慨してフルトヴェングラーに対して次々に酷い言葉を発する少佐と、言葉や国を超越する音楽の力を信じて毅然とした態度を取り続ける指揮者の対決が壮絶でした。
横暴で共感しにくい少佐が何故そのような振る舞いをするのかが後半で明らかになり、単なる悪役ではない深みのある描かれ方となっていて印象的でした。
平幹二朗さんのいかにも指揮者らしい重厚で品格のある佇まいと台詞回しが素晴らしかったです。それとは対照的なキャラクターを演じた筧利夫さんの膨大な台詞で攻め立てる憎たらしい姿も強烈でした。
平さんと筧さんのやりとりの場面がほとんどで、他の4人はあまり台詞がなかったのですが、それぞれの立場における心情が物語を膨らませていました。ベルリンフィルの元メンバーを演じた小林隆さんが人間の弱さを暖かく演じ、重苦しい雰囲気の中で息抜きになっていて良かったです。
当時の記録映像(かなりショッキングな内容です)やセットの大仕掛けが用いられていましたが、説明的過ぎるように感じました。演技が四方ので、わざわざそのような手法を使わなくても十分に内容が伝わると思いました。
クラシック音楽やフルトヴェングラー、そして当時の情勢についてある程度知識がないと少々取っ付きにくいかと思いますが、終盤に向けてどんどん引き込まれる作品だと思います。