テロルとそのほか 公演情報 工場の出口「テロルとそのほか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    演劇という表現の立体感
    プロセス共有チケットで観劇。描かれる今が戯曲の文字面から肌にやってくる感覚のさらに向こうに至るまでの道のりを体験させていただけたように思います。

    作品自体の面白さや秀逸さに加えて、その立ち上がり広がっていく過程に、演劇という表現の立体感のようなものを感じました。

    ネタバレBOX

    「プロセス共有チケット」というのは稽古やゲネプロのすべて、加えて本番を1度拝見できるというチケット。
    休日の昼に稽古を4時間ほど、
    その後夜に通し稽古を1度、
    本番を2度拝見しました。

    演劇のWIPや公開稽古は何度か拝見したことはあるのですが、
    戯曲を拝見させていただき、
    それが演劇に立ち上がり進化していく姿を体験するのは初めて。
    最初の稽古は、ざっと戯曲を読みながら
    いくつかのシーンの稽古をひたすら眺める。
    様々な試み、行きつ戻りつ
    紙に記された世界の印象が
    空間に立ち上がる空気の中で幾重にも塗り替わっていく。
    役者たちからやってくる世界は
    戯曲どおりの言葉で構築されているにもかかわらず、
    言葉ではなく、一期一会という感じで空気を立ち上げ、
    観る側に流し込んできます。
    びっくりするほどぼんやりした印象になることもある一方で、
    鮮やかな切れが現出してぐぐっと前のめりにさせられたり、
    時には戯曲ではまったく気づきえなかった、
    鮮烈なテイストに突然襲われることも。
    地道でタフな作業だと思いつつ、観ていて全く飽きない。

    二度目にお伺いしたのは夜の通し稽古でした。
    当然に従前に観たシーンもあったのですが、
    それらが作品に組み込まれると、
    さらに新しい意味や意図を纏って伝わってくる。
    戯曲もさらに何度か読ませていただいていたのですが、
    そんなこと綺麗に意識から消え失せて、
    場ごとに浮かび上がってくるものを追いかけ、揺さぶられ、
    浸りこんでしまう。
    シーン間の密度の差異が
    作品の流れに馴染んでいない部分もあったものの、
    個々のロールたちが背負うテーマにはエッジが生まれ
    観る側に置かれて。
    そして終わってみれば、
    組み上がるシーンの向こうに
    今という時代のベーストーンのようなものを感じる。

    公演(本番)は二回観ました。
    通し稽古で感じていたシーンの噛み合わせのノイズというかばらつきが
    しなやかな繋がりのための絡みとなって
    ひとつの作品の息遣いにまとめ上げられていて。
    そして、その中だからこそ、
    観る側を伝わり染めるモノローグに織り上げられたものがあって。
    戯曲としては従前に読み、観たものと同じものだし、
    個々のロールが背負うものの色が大きく変わったわけではないのですが、
    そこには、本番の芝居の鼓動のようなものがあって、
    その響きがあるからこそ
    時代の質感に浸され伝わってくる感覚がある。

    そして、最後に見た12月6日のソワレでは
    その芝居の鼓動にさらなるニュアンスが生まれていました。
    12月2日で垣間見えていた、
    ロールたちが抱えているものの先にあるなにかが、
    旨くいえないのですが、
    今の時代の呼吸のように思える。
    一人ずつのロールが抱くものや、
    抱くものやその場にあることが、
    理性を乗り越えて肌に伝わり残る。
    だから、よしんばそれがテロとして熟し落ちても、
    その踏み出しの感覚は、
    違和感や拒絶を前提としての傍観ではなく、
    理解の範疇での他者の姿としておかれるのです。

    なんだろ、本番を観てたどり着き、
    さらには、2回見ての気づきに
    演劇というものだから表現しうる
    その質感の幾重にも重なるリアリティを感じて。

    別に本番だけを見ても、
    しっかりと捉われる作品だとは思うのです。
    加えて、観客が稽古から加わっていくということの
    本来の目的には何一つ貢献できていなくて
    申し訳なくも思ったりもして・・・。
    でも、観客としては、稽古から拝見させていただき、
    その数mm内側から作品を感じたからこそ訪れる感覚もあって、
    よしんば、それとて演劇なるものの表層にすぎないとしても、
    芝居をなすということで生み出される表現の
    観客としての常ならぬ奥行きを垣間見る
    とても貴重な経験となりました。

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    2012/12/18 16:03

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