十一月花形歌舞伎 公演情報 松竹「十一月花形歌舞伎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 夜の部「スピーディーな通し狂言」
    日本橋浜町明治座の近くに8年間程暮らしたことがあるが、久しぶりに行くと高層ビルが建ちあたりはすっかり変わってしまっていた。

    明治座は先代猿之助が鏡山再岩藤を南座に次いで東京で初演した際の第一回公演を観ている懐かしい小屋だ。

    先代は30代40代の役者として最も元気な時代、ここで古典の復活公演を次々に行ってきた。

    スーパー歌舞伎で注目されることが多いが、彼ほど一俳優の立場で古典復活狂言の発掘に精力的に貢献した慧眼な人はいない。

    甥の亀治郎に猿之助の名跡を譲ったわけだが、私の中には鮮明に先代の足跡が残っている。

    歌舞伎はユネスコの世界文化遺産に指定されており、古典演目の継承も重要な責務である。

    博学な先代はいまでも復活狂言の発掘や新企画への意欲は健在と見え、若き当代へのアドバイスに私は期待している。

    天竺徳兵衛は歌舞伎座で先代の初演を観ている。それまで二世松緑の当たり役だったので、若々しく外連味たっぷりの新演出に目を奪われたものだ。

    つづら抜けの宙乗りは延若の石川五右衛門が先に手掛けていて、「いつか違う形でやりますよ」と前々から挑戦したがっていた。

    音羽屋型演出の古典にずっと挑戦してきた先代の面目躍如と言う作品でもある。

    ネタバレBOX

    南北という人は本当に天才だなといつも思う。

    冒頭は毛剃を思わせるし、楼門五三桐、東海道四谷怪談など要所要所にいろんな作品の名場面がいいとこどりで並んだような作品だ。

    お約束の異国話のくだりは日替わりで猿之助が考えているようだが、私が観た日もTPP問題や第三極政界再編などなかなか鋭く風刺をきかせて客席を沸かせる。

    歌舞伎役者に学問はいらないという旧門閥の長老の意見とは真逆に先代も当代も教養人らしい知的な遊び心を見せている。

    初演に比べずいぶんとスピーディーに洗練されているのに感心した。

    座頭の徳市が愛嬌たっぷりに木琴を弾くその「間」の素晴らしさに初演を懐かしく思い出した。

    いけずうずうしいおとわの悪婆役、案外当代はこういう役があうのかも。

    同じ場で、悪婆物が絶品と言われた三世時蔵のひ孫にあたる米吉が歌舞伎で言うところの「こっくりとした」女形ぶりを見せる。

    歌六の長男が女形にねえ、と驚くと同時に江戸時代は傾城歌六と異名をとった女形の家系の血を感じる。

    つづら抜けの宙乗りはいつ見ても手品のようで驚かされ、空中の引っ込みにお客さんは大喜び。

    大詰め、通し狂言だからお約束の「本日はこれぎり」の一座口上がほしい気もした。

    この場だけに出る段四郎、元気と聞いていたのだが、病気ゆえか言葉の途切れ途切れの不自由さに驚き、ハラハラした。

    来年は明治座の創業140周年というから、俳優も観客の自分も年をとったものだ。

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    2012/11/22 20:58

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