リチャード三世 公演情報 新国立劇場「リチャード三世」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    真っ当なシェークスピア劇
    「ヘンリー六世」から観ているので、いつもは、同じ名前の人物がたくさんいて混同したりする部分がわかりやすくて、すぐに、物語の世界に入り込めて、その分、じっくり堪能することのできた「リチャード三世」でした。

    やはり鵜山さんの演出は傑出している。今まで、たくさんの「リチャード3世」を観て来たのですが、今回程、シェークスピアの書いた台詞が時を越えて、胸に沁みた経験はなかったように思います。

    それは、個々の役者さんが、台詞を自分の身に落として、きちんと消化した上で発しているからだと思うのですが、そういう演出をできる鵜山さんの才能には感嘆するばかりです。

    落魄れたマーガレットが、恨みを込めて、この舞台の登場人物の悲劇を俯瞰して眺めている様を、中嶋さんが壮絶に凄みを込めて演じていて、迫力がありました。

    母の悲哀を全身で表現した倉野さん、那須さんと、少ない女優陣が、大健闘し、これまでになく、女性視点からも深みのある「リチャード三世」でした。

    今回もまた、城全さんの声に圧倒されました。

    リッチモンドの浦井さんは、品が良く神々しく、存在感が傑出しているのですが、たぶん、楽屋待機時間が長いのが影響されたのか、ややお顔がふっくらし過ぎていたのが、ちょっと惜しいなと思いました。

    ネタバレBOX

    服装や椅子など、当時とは逸脱した、現代風のものもたくさんあり、かと思えば、きちんと当時を再現する衣装もありで、きっとそのあたりにも、細かい演出意図が隠れていそうでした。

    現代にも通じる人間の性を描く部分には、普遍的な衣装や小道具を多様したのかもしれません。

    リチャード三世の描き方も、極悪非道な悪党という部分より、生まれながらに、不幸を背負って、母にも愛されなかった人間の哀しさを浮き立たせた演出だったように感じました。

    それにしても、中嶋さんのマーガレットが、呪いの言葉を口にする長台詞、たくさんのエドワードが登場するのですが、よどみなくおっしゃっていて、脱帽ものです。きちんと、自分の息子のエドワードと別のエドワードを意識の中で選別していらっしゃるから混同しないんでしょうね。

    中嶋さんに限らず、この舞台の役者さんは、皆さんが、役になりきって台詞をご自身の心の中で咀嚼して声に出してくださっているので、いつもの亜流シェークスピア劇で、耳にするような、単に長台詞を頭に叩き込んだだけといった感じの芝居とは、全く、観客としての体感が異なりました。

    リッチモンドが、戦争前夜、軍隊に向かって鼓舞する演説は、そのまま、客席の我々に向けて発せられているような高揚感があり、体が震えさえしました。

    リチャードに殺された人物達が、入れ替わり立ち代り、「絶望して死ね。」「生きて栄えよ。」と、眠るリチャードとリッチモンドに交互に浴びせる台詞には、私も、心の中で、「○○は絶望して死ね」と唱和してしまいそうになりました。
    実際、現実生活で、恨みのある人物を殺すわけにはいかないので、こういう演劇の世界で、仮想仇討ちできて、心が落ち着くのかもしれないと思ったりしました。

    殺されたリチャードの兄弟役のお二人が、幽閉された王子の役を人形を手に、演じられたのも一興でした。私は、子役を出さなかったのは成功していたと思います。

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    2012/10/16 00:07

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