艶やかな骨 公演情報 十七戦地「艶やかな骨」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    【Aバージョン:女性版】素晴らしい作品だった第1作『花と魚』と同様のセンス・オブ・ワンダーを感じる
    わずか60分なのに。

    狭い会場で、熱のある舞台が繰り広げられる。

    ネタバレBOX

    数年先の未来の話。
    渋谷に新設された緑化技術研究センターは、都心から食糧自給率のアップを目指し、どんな環境でも栄養価の高い野菜を開発しようとしている。
    そこで開発された野菜は「渋谷野菜」というブランドで販売され、人気を呼び、プレミアまで付いてくる。

    しかし、同時期に子どもたちの間で、穀物や野菜のアレルギー症状が出てきた。
    アレルギーのある子どもたちの共通点には、「渋谷野菜」を食べていたことがあった。

    都の食物アレルギー調査官は、そのことに気づき、センターでの開発に何か問題があるのではないかと探り、センターが採取してきた村の村民が全員餓死したことや、センターの中心的人物である博士までも餓死していたことを突き止める。

    折しも、センターでは、画期的な稲を記者発表する日であった。
    あと60分でそれは始まる。

    アレルギー調査官は、センターに乗り込み真相を究明しようとする。

    そんなストーリー。

    記者発表までの60分間を、オンタイムで進行する。
    センターが隠している真実を暴くという展開になるだろうと、観ているわけなのだが。

    徐々にその「真実」というものが、まるで皮を1枚1枚剥ぐように、台詞の1つひとつで明らかになっていく。
    センターで開発された作物に問題があるのでは? という問いに対して、単にそういう回答を探っていくだけの、直線的なストーリー展開にならないところが素晴らしい。

    十七戦地の第1回公演『花と魚』でも感じた「センス・オブ・ワンダー」がうまく散りばめられ、さらにそこに現代におけるさまざまな問題点が浮き彫りになっていく。

    この新しい農作物に問題があるのではなく、実はすでに世の中に蔓延してる「普通の食べ物」に問題がある、という結論は本当に面白い。
    やられた、という感じだ。
    まさに「問題提起」としては、これが一番であろう。
    声高ではなく、静かな問題提起だ。
    「今、自分たちは何を食べているのか」ということに考えが向かう。

    ストーリーには、複線的に、研究開発でのことや、博士との軋轢、同僚との人間模様などまでも、この時間の中に盛り込んである。

    作・演の柳井祥緒さんという人はこういうストーリーを書かせると、ピカイチではないかと思う。

    また、役者もよかった。調査官役の植木希実子さんの鋭さ、そして立場を指摘されたときのたじろぎ、根村研究員・大竹絵梨さんの苛立ち、総務部係長・鈴木理保さんの声の荒げ方、課長・坂本なぎさんの上司らしい落ち着きと、責任感、さらに修善寺研究員・篁沙耶さんの後半から存在が現れてくる感じ、さらにNPO法人担当者・藤原薫さんのニュートラルなところ等、それぞれの役割がきちんと果たされており、舞台の面白さにのめり込まされた。

    折り紙で「足のある魚」を折らせ、BSEのエピソードを入れることで、第1作『花と魚』を匂わせる(『花と魚』では口蹄疫)。イメージとして『花と魚』『艶やかな骨』2つの物語が、対になっていることがわかってくる。

    つまり、『花と魚』では野生動物と人間の暮らしのトレードオフな関係、村で行われようとしている村おこしのことなどを、「足のある魚」というグロテスクなアイコンを使って、果たして何が正解なのか? を問うていたのに対して、今回は、「安全な食物」をキーワードに、実際に今われわれが食べている食物とはどんなものなのかや、遺伝子組換え、研究開発などを盛り込んで、やはり「何が正解なのか」を問題提起している。
    人を浄化させるほどの安全で、高効率な、センターが開発した農作物がいいのか、しかし、それには逆に、身体を浄化してしまうがゆえに、一般に出回っている農薬や化学肥料を使った「普通の食べ物」を食べてしまうとアレルギーを引き起こすトリガーとしての問題点がある、という関係。

    ホントによくできていると思う。

    0

    2012/08/17 06:00

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大